第四話 くらしの中で
その2
私の場合、将来のことを娘から提案されたことはあったが、自分が実際に娘の家に滞在することが10年以上続いたのでよくわかっているので、最終的には現住所の自宅でずっと過ごすことに決めた。
敷地が広いので私の考えで二人に配分するように証書に記録した。財産分与にしても私の一方的な考えで決めた。
長女のほうはまだまだ海外での仕事をやめることはできないので帰ったとしてもそのとき私の状況がどうなっているかはわからないが、生きてさえいてくれたらいいと言われている。
それにしてもふたりとも同居していないのだから、無事に受け継いだものの手続きができるだろうかと思う。仕事が相続や税務関係なので事務的には私以上なのであるが、彼女らが知らない細かいことが色々ある。
今日貸している店舗から雨漏りがするという報告があった。本社からの電話なので前に話した人とは人事が代わっているようだった。管理をする人はいないのですかと言うので私が手配して修理しますと答えておいた。
確かにいくつかの不動産の管理は自分がやらないと誰もできないことなのだ。
もし私がピンコロで居なくなったら、今と同じく管理ができるだろうかと思った。
私は自宅や貸店舗から不具合を訴えて来た場合、即修復の手配をしてきた。
依頼する業者さんの電話番号は携帯に入れているからすぐに連絡でき来てもらえる。
公正証書だけ渡されて何が何だかわからない処理は難しいのではないかなと思うのだ。そうかと言ってこれまで帰省した折には細かい話をすることはなかった。
海外にいる娘がこの間帰ったとき、家の鍵をまとめて渡しておいた。
仕事はやれる人間だが身の始末は実に雑なので大丈夫かなと思う。
次女の方は今高校3年の一人娘の学校のことで頭がいっぱいのようで母親の死後のことまで考える余裕はないだろう。私の身を案じて欲しいという意味ではなく、自分が受け継いだときにどうすればいいかということきっちり知っておいてもらわなければ焦ることになろう。
他所の土地に住んでいて、帰ればいつも母親が面倒を看てくれているのだからそれがひっくり返る状況になればうろたえることになるのではと思う。まあ馬鹿ではないのだからどうにかするだろうけど、こちらもあらゆる連絡先を書いてどこかに張り付けておかなくてはとは最近思っている。
完
第五話に続きます
作品名:第四話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子