第四話 くらしの中で
その2
その時私の自宅での状況はとても苦しい時期だった。
娘二人はぼつぼつ自立の段階に入っていたが、肝心の相棒が脳の病気で倒れ長い療養生活に突入しようとしていた。
ただでさえ病人を抱えての暮らしは大変なのに脳を患っている人間は常識では考えられない言動をするものだ。理屈に合わないことで怒りをぶつけ、時には襲い掛かられることもあった。
別棟に住んでいた母親は年老いていて時々懇意な個人病院への入退院を繰り返していた。母は年相応に健常な脳を持ち合わせていたので私の愚痴を良く聴いてくれて支えにもなった。
私の家は敷地が広かったので、相棒は退院して脳の状態が少し良くなったころリハビリの一環として固い土の芝生を掘り起こしてミニ畑を作った。私が野菜や花を植えられるようにとの思いだったようだ。
夫が倒れたのは会社の停年の1年前だったので退職するまでの1年間を休職していた。減額はされたものの給料は毎月もらっていたし翌年の停年退時には職金も普通にもらった。
作品名:第四話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子