六人の住人【完結】
最終話「それからのハッピーエンド」
皆さま、お久しぶりです。時子です。いいえ、それは私の本名ではありません。ここに本名を書いて、皆さまにきちんとお礼を言えない事も、心苦しいです。
私は、助かったと思います。
あれから。「五樹としての私」を統合し、その私にくっつく形で、他の人格もすべて統合がなされてから。私の毎日は、生まれて初めて平穏を得ました。
何を思い出しても、悲しくなる事はほとんどなく、少しずつうつ状態も良くなってきています。最近では、知らない人があまり怖くなくなりました。
過去、毎日泣いてばかりで、自分を強く責め続け、母から与えられていた罰を自分でなぞり、友との別れを悔やみ続け、母から扱われているように人を怖がり続けていた、私。
辛い日々でした。本当に、生きていたのが不思議なくらいでした。
私は自分の人生を、「私は不幸に死ぬだろう。でも、誰にも迷惑はかけまい」と勝手に決め込んでいました。
「自分の不幸には自分で責任を負ったのだ」と、最期に思えればいい。そんな覚悟だけが、私の生きる支えでした。
でも、私の中に別の人格がバラバラに生まれて、抑えきれないはずの感情を凍りつかせていてくれたお陰で、私は守られていました。
「怒り」。それを、関係の無い人にぶつけないため。
「悲しみ」。それがために命を落としてしまわないように。
「さみしさ」。それを思い出して悲しまないように。
「気楽さ」。それが私の現実と違い過ぎる事に、私が傷つかないように。
「思い出」。そのあまりの強さに、私が耐えられなくなってしまわないように。
「冷静さ」。それをもって私を影から支えるために。
「みんなあなたを守るために生まれたんですよ」。そう言っていたカウンセラーさんの言葉の意味が、今なら分かります。
彼らは私の感情的記憶であり、私が揮う事の出来なかった才能であり、私の強いショックを凍結させた存在でした。
それぞれに主張の違う彼らは、いつも食い違っていましたが、それは、私が余りに大きな矛盾に苦しんでいたからなのです。
おそらく、「五樹としての私」は、別人格をもう一度元に戻すための体力を、私に付けようとして、あんなに私を休ませようとしてくれていたのではないでしょうか。
彼が「俺達は単なる過渡期にある」と口走っていたのを思い出します。いいえ、それも私の言葉なのですが。
でも、今でも「五樹」だった瞬間の事を思い出すと、あの頃、まるで他者と接しているように、自分の面倒を見ていた気持ちを思い出します。
主人格として、いくつもの記憶や考え方を失っていた私。
手が掛かり、子供っぽくて、悲しみやすい私。
「五樹としての私」は、毎日それに振り回される形で、愚痴を言っていました。
なんだか懐かしいな。