鈴蟲
蟲が齧《かじ》り付いている――。
痛みを堪えて首を上げると何も感じられない脚は黒い別の生き物に変じていた。
遠雷は声にならない叫びを上げつつ左腕一本で身体を躙るが、蟲は怖じける事も無く次々と遠雷の身体に跳び乗り攀《よ》じ登る。
やがて蟲は跳び乗る場所が無いのか、遠雷の顔にまでをも侵して来る。
堪らずに目を閉じると目蓋を齧られた。
がさごそと耳に異物を感じる。
鼻の穴に頭を突っ込まれたのか、鼻の中に鋭い痛みを感じた。
口を開けば口にまで侵入してきた。思わずぶっと吐き出すが、次に口を開くと更に多くの蟲がなだれ込む。最早口を閉じる事さえ敵わなかった。
遠雷は全身を包む悪寒の中で自分の身体が少しずつ損なわれて行くのを感じていた。
既に粟立つ皮膚さえ残されていないのかも知れない。
目蓋はとうに喰い尽されて眼球さえ月光を捉える事は出来なかった。
相変わらずがさごそと異音のする耳に蟲達の美しい歓喜の歌声が響いていた――。
おわり