火曜日の幻想譚 Ⅲ
328.寄船
僕の生まれは東北地方の漁村でね。小さい頃、おばあちゃんに奇妙な昔話を聞いたことがあるんだ。内容はおぼろげだけれど、確かこんな話だったと記憶しているよ。
江戸は寛永の頃の話だ。当時、この村は大飢きんに襲われていた。当時の東北地方はとにかく貧しくて、大名家もお金のやりくりに困っていたほどだったという。そんな状況だ。地方の寒村に食べ物なんかありゃしない。それぐらい厳しい状況だった。
そんなある日のこと、村の砂浜に奇妙な船がたどり着いた。それを見つけた村の若い衆は船をよく調べる。結果、数年前に漁に出て、そのまま行方を絶った隣村の船だということが分かった。
船内に生きている者は誰一人としていなかったが、遺体は4体あった。おそらく他の乗り手はみんな海に飛び込んでしまったかどうかしてしまったのだろう。また、遺体の他に、いろいろと金目のものが転がっていた。
さて、こういう場合は船は隣村へ返されることになる。しかし村の若い衆は一計を案じた。要するに、隣村の船だとは露ほども知らなかったいうことにしてしまったのである。
そのおかげで、わが村は船内の金目のもので、どうにか飢きんをやり過ごすことが出きた。しかし、隣村は全滅してしまい廃村の憂き目にあったんだ。村の若い衆の機転でどうにかうちの村は救われたという話なんだ。だけれど、当のヒーローである村の若い衆は、全滅した隣村に恨まれて死んでしまったということだ。
……いささか後味の悪い話だろう? だが、この話、これだけじゃないんだよ。いくつかの疑問点があるんだ。
なあ。まず、本当に、船の中には生きている人間はいなかったのかな? 次に、村の若い衆の死にも疑問が残るよね。恨まれて死んだんじゃなくて、「口封じ」のために殺されたんじゃないかって疑問が残る。
そして最後に、この話。おばあちゃんが小さい頃一度っきり話してくれただけで、誰に聞いてもそんなことは知らないというし、図書館にも郷土資料館にもこの話はない。村全体で隠したい話なのか。まさかと思うが、おばあちゃんが作り出した話なのか……。僕も都会に出てきてしまったから詳細を調べる気はないけども、興味があったら、調べてみるといいかもしれないよ。