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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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331.ダツ占い



 ダツという魚を知っているかい。そいつは光を当てると、猛突進してくる習性があるんだ。その威力は凄まじくて、人の体に刺さって死んだ例もある。だから、漁師にとっては、さめ並みに危険視されている魚なんだよ。

 このダツに関する話を、漁師をしていた祖父がしてくれたんで、話してみようかと思う。

 祖父がやっていたのは遠洋漁業というやつで、一度、港を離れたら数カ月は陸に上がれない。だから、ものすごく大変な反面、実入りもすごく良かったらしい。

 ある日のこと。久しぶりに数日間、家で羽根を伸ばして、また仕事ということで船に乗って沖に出た。でも、各々が船上で役割を全うしていく中、どうも、そこここに人の気配がする。だけど、忙しくて自分のことで精一杯だったので、みんな黙っていたそうだ。
 人の気配は、出向してから三日目に理由が判明した。部外者が紛れ込んでいたんだ。食物を漁っているところを見つかったその男は、必死に頼み込んでくる。
「乗る船を間違えた。頼む、手伝うから船に置いてくれないか」
船長は男の処遇を考え込んだが、生きたまま大海原に置き去りにするわけにも行かず、渋々了承したそうだ。
 ところがこの男、一向に漁を手伝わない。ひたすら食っちゃ寝をするだけ。それだけならまだ良かったんだが、この男が見つかってからというもの、大嵐に遭うは、日照りに遭うは、肝心の漁もうまく行かないはで、散々なありさまだったようだ。
 そんなわけで、彼に対する乗組員のヘイトがたまっていたわけだけど、さらに衝撃の事実が明かされる。その男、なんと陸で人を殺してお尋ね者になったので、逃げ出すために船に乗り込んだのだ。
 海の男はことさら迷信を大切にする。殺人を犯したような男が船上にいるから、海の神にたたられて、嵐や日照りに遭い、漁もうまく行かなくなったに違いない。乗員は男に内緒で話し合い、彼の処遇を協議した。殺してしまったら、同じ穴のむじなだ。かといってこのまま置いとくわけにも行かない。考えに考え抜いた結果、彼らは一つの方法を実行することにした。

 その晩、乗員は男が寝ているすきに、すのこにぐるぐる巻きにして縛り上げた。そして、甲板に立たせるようにして配置し、周囲をライトでなるべく明るく照らし上げる。何のことだかわからない男に、船長はこう告げた。

「われわれの身に災難が降り掛かっているのは、人を殺めたおまえが海の神の怒りに触れているからだ。もし、そうでないというのならば、今夜、一晩この状態で何事もなく過ごしてみろ。そうすれば、海神がお怒りではないということで、正式にわれわれの仲間に加えてやる」

 翌朝、男は数匹のダツに体を刺し貫かれて絶命していた。待ってましたとばかりに船員たちは、彼の死体を海に放り込む。それ以降、嵐にも日照りにも遭うことはなく、漁を無事に終えて帰ることができたそうだ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔