火曜日の幻想譚 Ⅲ
333.殺人鬼日和
「あぁ、今日もひどい殺人鬼日和だ」
人は殺人鬼に生まれつくのではない。天気で殺人鬼になるという衝撃的な事実が発見されてからどれほどたっただろう。こんな青白い日が照ってる日、人は同族を激しく殺したくなる衝動に駆られてしまうのだ。
もちろんその天気は何日も続きはしない。でもその間、みんな家に引きこもる。殺人鬼に会いたい奇特な人などそういないから。短時間とはいえみんなが家にいる。するとどうなるか。当然、出前や配送をする人が忙しくなる。
実は、天気で殺人鬼になるという事実と同時にもう一つ、偉大な発見がなされていた。この天気で殺人鬼になってしまう症状に、抗体を有する人間がいるということだ。その数はそれほど多くはなかったので、貴重な労働力として扱われる。ニートも、普通のサラリーマンも、会社社長も、抗体を持っている人はみな、殺人鬼が出る日は出前や荷物を配達するのだ。
『ピンポーン』
僕の元にもそういう人が荷物を届けにやってくる。いつもの宅配のお兄さんだ。彼は抗体どころか神経まで殺人鬼とは程遠いらしく、さわやかな笑顔で玄関に荷物を置いた。
「今、一筆お願いしますんで、ちょっとお待ちください」
そう言って機械を取り出してごそごそしている彼の無防備なけい動脈に、僕は包丁をずぶりと埋め込んだ。
殺人鬼が外をうろつくばかりとは限らない。配達をするものはその事も知っておいたほうがいいだろうね。