火曜日の幻想譚 Ⅲ
336.暗幕
放課後。僕と明佳里は人目を気にしながら、学校の片隅の視聴覚室へと忍び込む。
手慣れたもので、もう表情など変わらない。ただ、周囲に人がいないか、それは多少気にしている。けれど、こんな校舎の片隅の一室。今はもう使われていない視聴覚室に人が来ることなんて、ない。
僕はおもむろに窓の外を見る。冬の弱い太陽と、その下で部活に興じる学友たち。数日後に試合を控えた野球部は声を張り上げ、トラックを走る陸上部はストップウォッチの数字に一喜一憂し、テニス部はジャージで狭いコートを走り回っている。
(……これが青春ってやつなのかなあ)
彼らを横目に、僕は暗幕カーテンをタッセルから解き、ファサッとその漆黒を翻させた、ちょうど僕と明佳里がそれに包み込まれるように。
次の瞬間、僕と明佳里は黒に上半身を捕らわれ、二人きりとなる。やおら唇に何か温かいものが触れ、それと同時に局部をさすりあげられる。僕はその犯人を抱きしめ、後ろからその手を尻の下の秘部に滑り込ませた。
明佳里とこんなことをし始めて、どれくらいがたっただろうか。彼女は美しいことは美しいが、名前に反して表情が暗過ぎる女子だ。そのせいだろうか、あまり男子と絡むことのない生活を送っているようだった。
そんな明佳里が、放課後いつもどこかに行くのに気付いたのは、やはりクラスの陰キャの僕だけだった。僕は彼女を興味本位で尾行する。そこで見たものは、上半身を真っ黒なカーテンに包んで激しく恥部を擦り上げる明佳里の姿だった。
別に、その光景を見て脅そうとか、そういう気持ちはこれっぽっちも起きなかった。ただ、クラスの女子がすごいことをしてるという衝撃に、完全に固まっていた。
そんな僕に明佳里は気付く。すると彼女は驚くことに、液体に塗れた手で僕の手を取り、闇の中に引き込んだんだ。
中は黒一色だった。常々醜いと思っていた僕の顔は常闇で見えず、欲望をつかさどる下半身だけが露出している。僕は気付いた。この状態ならどんな痴態だって恥ずかしくないし、めくるめく愛欲にふけっていいんだってことに。
僕は夢中で明佳里を抱きしめ、口では言えないような恥ずかしいことをする。明佳里はそれを全て受け入れた上に、それ以上にみだらことを僕を仕掛けてきた。
その日以降、僕らは視聴覚室で暗幕に包まる日々。今日も今日とて、明佳里をまさぐり、明佳里にまさぐられ、快楽のけいれんにのたうち回り、途切れる声を上げ続けている。上半身を隠し、下半身だけを露出した状態で。
外ではみんな、外で部活という名の青春時代を生きている。それを横目に暗闇でケダモノになっている僕ら。こういうただれた青春も、悪くはないかなと思った。