火曜日の幻想譚 Ⅲ
350.organ
音楽の都、オーストリアのウィーン。そこには、人間の器官を使用して作られた珍しいパイプオルガンがあるそうだ。このオルガンは1876年に製造され、100年以上、荘厳な音で市民を楽しませてきた。
実際に人間の器官が使われているのは、パイプの部分だそうだ。そこに、人間の大腸が用いられている。パイプといえば、風を通して音が鳴るところなので、いささか下品な例えだが、ちょうどおならのようなものと考えれば、分かりやすいかもしれない。
なぜ人体を用いることになったか。これも逸話がある。開発当時、このオルガンは、とにかくパイプ部分が壊れることで有名だったそうだ。1曲の演奏中、パイプが3回も壊れたことがあるらしく、およそオルガンとして使える代物ではなかったらしい。
そこで、困り果てた持ち主が、やけになって死刑囚から腸を抜き取り、それをパイプの代わりとした。そうしたら不思議なことに、音がまろやかで以前よりいい音を奏でるようになったのだそうだ。
ところが、今、このオルガンにちょっとした問題が発生している。
さすがに人体となると、どんなに手入れをしても腐ってしまうので、演奏ごとに新しい大腸に取り換えなければならない。しかし、ここまで高名なオルガンになってしまうと、自分の大腸を提供したいという人が後を絶たないそうだ。そのためにけんかになるのはまだいいほうで、腹を刺して、ライバルの大腸を引き抜こうとするような痛ましい事件すらも起きている。
仕方がないので、オルガンの持ち主は、器官提供者の情報や提供の順番を、厳密に管理する機関を設立し、大腸を公平に受け取れる形を目指す意向だそうだ。
すなわち、organで作られたorganを管理するorganが発足する、というわけである。