夏が終わる
「そっちに逃げたぞ!」
深夜。
自宅の外から男の叫び声が聞こえ、目を覚ました。
「そっちだ!そっち!」
「あっ、ばか!危ないぞ!近づくな!」
「やばいぞ!やばいぞ!」
男達の緊迫感のある叫び声で完全に眠気が吹き飛んだ。
私は暗闇の中、微塵も動けず、布団の中で息を潜めて状況を伺うしかできない。
心臓の鼓動は信じられないくらい早く、首元と背中にジンワリと汗をかいている。
現在どういう状況なのだろう。
恐怖で電気もつけられない。
「おい!やばいぞ!」
「なんだよアイツ!」
「あの動きはなんだ!」
「速いぞ」
どうやら複数の男達が自宅の外で【なにか】を追い詰めているようだ。
私はアパートの1階に住んでいる。
自宅の玄関には鍵がかけているのだが、男達の怒号は玄関から逆。ベランダに繋がる窓の外からしている。
「やべえぞあれは!」
「電気を付けるな!襲ってくるぞ!」
「パトカーはやばいから呼ぶなよ!赤色灯なんてつけたら終わりだ!」
「やばいやばい」
どうやら電気を付けるのはまずいらしい。
私はガクガクと体を震わせ、汗だくになりながらも布団の中にもぐるしかない。
なんなんだ!
一体何が外にいるんだ!
「やばいぞこの家の洗濯機の横に逃げたぞ!」
男の声が私の家の洗濯機に向かってした。
「よし!」
「ようやく追い詰めたぞ!」
「いいか!ゆっくり、ゆっくり、確実にだぞ!棒でいっせいに叩くんだぞ」
どうやら【なにか】を追い詰めたようだ。
私は布団の中で震えたままである。
「お前こりゃあ。いやあ久しぶりにヌメルドンモンのすき焼きだなあ」
「お前、捕まえる前から食いしん坊だなあ。でもヌメルドンモンのすき焼きなんて久しく食っていないもんねえ」
「明星豆腐に森林ネギ。流水白滝にヌメルドンモンの肉。割り下は逆鱗昔館社の【めっちゃすき焼きやねん】。それにバミンフロッグの卵をといてね」
「そうそう。たっぷりの卵に熱々の肉をぶち込んで」
「そうそう、たっぷりたっぷり」
「もう最高だよな!」
「最高だよ」
「最高最高最高~最高!」
先ほどまで続いていた緊張感の糸がプツリと切れた。
どうやら外で話している男達の話題は【なにか】ではなく、すき焼きのことに移行したらしい。
私は布団から頭をヒョッコリと頭を出し、辺りを見回してみるもいつもの自宅と何も変わらない。
このまま布団の中でジッとしていてもラチがあかないし…
何より自宅の目の前で男達が何かを捕らえているのを放っていくわけにもいかない。
私はゆっくりと布団から出て、部屋の電気をパチンとつけてみた。
「あれ…おかしい」
しかしいくら試しても電気はつかず暗闇のままであった。
暗闇に幾分目がなれているのもあり、男達の声がしているカーテンの近くまで歩いていった。
そして意を決して、この騒ぎの対応にあたることにした。
「すみません。だれか居ますよね。かなり遅い時間ですがどうしましたか?」
私はカーテンを開きながら、窓の外に声をかけた。
「あっ」
窓の外にはガリガリの男が4人立っていた。
皆、上下黒のスウェット姿。
そして頭にピエロが被っているようなボンボリのついた、いわゆるナイトキャップをかぶっているのだ。
他に特徴としては…
耳は皆ピンととんがっていて大きい。身長は150センチくらいだろうか…
「あの…」
男達は私に向かって深くお辞儀をしている。
私は黙っていても仕方がないのでゆっくりと窓も開け、今の状況を男達に説明してもらうことにした。
「おったまげたっす」
「おったまげたなー」
「おったまげましたね」
「おったまげー」
ガリガリの男達は私の顔を見るや、目を丸くして驚いているようだった。
「何があったんですか?私の家の前で叫んでたんで起きましたよ」
私は少しムスッとした声で男達向かってゆっくりハッキリと申し上げた。
「いやーヒューマリズムと会話するなんて何年ぶりだろう」
「そうだね。こちらのヒューマリズムはどうして目を覚ましたのだろう」
「まずいね、まずいよね。起こしちゃったよね、まずいね」
「すみませんでした~罪悪感です、ああ罪悪感、罪悪感」
男達は互いの顔を不安そうな顔で見つめあい、何やらどうしたら良いのか相談しているようだ。
「そうだ!」
男達の中でリーダーっぽいのが、顔の前でポンと手を叩いて何かを閃いたようだ。
「ご迷惑をおかけしたので私達のお祭りにつれていきます。さあ、靴を履いてください。さあさあ出かけましょう」
*****
男達に何か不思議な力があるのだろうか…
私は気がつくと、男達に言われるがまま、家を飛び出し、自宅から30分くらい離れた学校の校庭に来ていた。
深夜だというのにも関わらず沢山の夜店が校庭に出ており、沢山の人だかりができている。
「さあさあヒューマリズムさんもたくさん楽しんで下さい。お詫びいたします」
私はリーダーっぽいガリガリの男に連れられ、夜店を見て回る。
たくさんの人だかりが居るのだが、人間は私しかいないようだ。
皆、ひどく身長が低く、耳が大きくとんがっている。
上下スウェット姿で、ナイトキャップをちゃんと被っている。
【ごいすん焼】
【へむん果実チョコバー】
【ずんだこ射撃】
【しゃりん氷】
【ひゅうどう水しぶき】
【ごった首締め煮】
【断片投げ】
【ゴザレみりん干し】
見た事も聞いたこともないお店ばかり。
たくさんの赤提灯が列になっている。
その景色はとても幻想的だった。
笑い声が響く深夜の校庭に、何かが焼けてうまそうな香ばしい香りが充満している。
「いやあすごい賑わってますね。なんですかこのお祭りは?」
「夏別祭と言って、夏の終わりのお祭りなんです。秘密のお祭りです」
「カ・ベ・ツ・サ・イですか…こりゃすごい」
その後私は得体の知れない夜店の料理をご馳走してもらい、ゴッドカーネルと呼ばれている冷えた酒も飲ませてもらった。
どれも初めて飲み食いしたのにも関わらず、どこか懐かしい味わいに私は心から喜びを感じていた。
「全部美味しいです。ありがとう」
「そうでしたか。そろそろメインイベントです。さあさあこちらへ…」
*****
プールの脇。
特設の盆踊り会場のようなものが出来ていた。
「さあさあ踊りましょう」
知らぬ間に先ほどの男達も合流し、総勢50人くらいで中央の大太鼓をグルリと囲う形となった。
私も何がなんだか分からないまま、その場所に合流させられた。
「皆様それではじめますよー!」
司会のネジリハチマキにナイトキャップの女が拡声器を使って叫んでいる。
「ちゃんかちゃんかちゃーんのちゃーんのちゃん、ほーら!ちゃんかちゃんかちゃーんのちゃーんのちゃん」
会場に、何度も再生したせいで若干伸びてしまったであろうカセットテープの音源が流れ、先ほどの司会の女が中央で大太鼓を叩き始めた。
「ちゃんかちゃんかちゃーんのちゃーんのちゃん、ほーら!ちゃんかちゃんかちゃーんのちゃーんのちゃん」
私も良く分からないが、見よう見まねで踊りに参加した。
それでも自然と笑みがこぼれているのは自分でもすぐに気がついた。
*****
踊り終えて、心地よい疲労感から、盆踊り会場近くの芝生の上に腰を下ろした。
深夜。
自宅の外から男の叫び声が聞こえ、目を覚ました。
「そっちだ!そっち!」
「あっ、ばか!危ないぞ!近づくな!」
「やばいぞ!やばいぞ!」
男達の緊迫感のある叫び声で完全に眠気が吹き飛んだ。
私は暗闇の中、微塵も動けず、布団の中で息を潜めて状況を伺うしかできない。
心臓の鼓動は信じられないくらい早く、首元と背中にジンワリと汗をかいている。
現在どういう状況なのだろう。
恐怖で電気もつけられない。
「おい!やばいぞ!」
「なんだよアイツ!」
「あの動きはなんだ!」
「速いぞ」
どうやら複数の男達が自宅の外で【なにか】を追い詰めているようだ。
私はアパートの1階に住んでいる。
自宅の玄関には鍵がかけているのだが、男達の怒号は玄関から逆。ベランダに繋がる窓の外からしている。
「やべえぞあれは!」
「電気を付けるな!襲ってくるぞ!」
「パトカーはやばいから呼ぶなよ!赤色灯なんてつけたら終わりだ!」
「やばいやばい」
どうやら電気を付けるのはまずいらしい。
私はガクガクと体を震わせ、汗だくになりながらも布団の中にもぐるしかない。
なんなんだ!
一体何が外にいるんだ!
「やばいぞこの家の洗濯機の横に逃げたぞ!」
男の声が私の家の洗濯機に向かってした。
「よし!」
「ようやく追い詰めたぞ!」
「いいか!ゆっくり、ゆっくり、確実にだぞ!棒でいっせいに叩くんだぞ」
どうやら【なにか】を追い詰めたようだ。
私は布団の中で震えたままである。
「お前こりゃあ。いやあ久しぶりにヌメルドンモンのすき焼きだなあ」
「お前、捕まえる前から食いしん坊だなあ。でもヌメルドンモンのすき焼きなんて久しく食っていないもんねえ」
「明星豆腐に森林ネギ。流水白滝にヌメルドンモンの肉。割り下は逆鱗昔館社の【めっちゃすき焼きやねん】。それにバミンフロッグの卵をといてね」
「そうそう。たっぷりの卵に熱々の肉をぶち込んで」
「そうそう、たっぷりたっぷり」
「もう最高だよな!」
「最高だよ」
「最高最高最高~最高!」
先ほどまで続いていた緊張感の糸がプツリと切れた。
どうやら外で話している男達の話題は【なにか】ではなく、すき焼きのことに移行したらしい。
私は布団から頭をヒョッコリと頭を出し、辺りを見回してみるもいつもの自宅と何も変わらない。
このまま布団の中でジッとしていてもラチがあかないし…
何より自宅の目の前で男達が何かを捕らえているのを放っていくわけにもいかない。
私はゆっくりと布団から出て、部屋の電気をパチンとつけてみた。
「あれ…おかしい」
しかしいくら試しても電気はつかず暗闇のままであった。
暗闇に幾分目がなれているのもあり、男達の声がしているカーテンの近くまで歩いていった。
そして意を決して、この騒ぎの対応にあたることにした。
「すみません。だれか居ますよね。かなり遅い時間ですがどうしましたか?」
私はカーテンを開きながら、窓の外に声をかけた。
「あっ」
窓の外にはガリガリの男が4人立っていた。
皆、上下黒のスウェット姿。
そして頭にピエロが被っているようなボンボリのついた、いわゆるナイトキャップをかぶっているのだ。
他に特徴としては…
耳は皆ピンととんがっていて大きい。身長は150センチくらいだろうか…
「あの…」
男達は私に向かって深くお辞儀をしている。
私は黙っていても仕方がないのでゆっくりと窓も開け、今の状況を男達に説明してもらうことにした。
「おったまげたっす」
「おったまげたなー」
「おったまげましたね」
「おったまげー」
ガリガリの男達は私の顔を見るや、目を丸くして驚いているようだった。
「何があったんですか?私の家の前で叫んでたんで起きましたよ」
私は少しムスッとした声で男達向かってゆっくりハッキリと申し上げた。
「いやーヒューマリズムと会話するなんて何年ぶりだろう」
「そうだね。こちらのヒューマリズムはどうして目を覚ましたのだろう」
「まずいね、まずいよね。起こしちゃったよね、まずいね」
「すみませんでした~罪悪感です、ああ罪悪感、罪悪感」
男達は互いの顔を不安そうな顔で見つめあい、何やらどうしたら良いのか相談しているようだ。
「そうだ!」
男達の中でリーダーっぽいのが、顔の前でポンと手を叩いて何かを閃いたようだ。
「ご迷惑をおかけしたので私達のお祭りにつれていきます。さあ、靴を履いてください。さあさあ出かけましょう」
*****
男達に何か不思議な力があるのだろうか…
私は気がつくと、男達に言われるがまま、家を飛び出し、自宅から30分くらい離れた学校の校庭に来ていた。
深夜だというのにも関わらず沢山の夜店が校庭に出ており、沢山の人だかりができている。
「さあさあヒューマリズムさんもたくさん楽しんで下さい。お詫びいたします」
私はリーダーっぽいガリガリの男に連れられ、夜店を見て回る。
たくさんの人だかりが居るのだが、人間は私しかいないようだ。
皆、ひどく身長が低く、耳が大きくとんがっている。
上下スウェット姿で、ナイトキャップをちゃんと被っている。
【ごいすん焼】
【へむん果実チョコバー】
【ずんだこ射撃】
【しゃりん氷】
【ひゅうどう水しぶき】
【ごった首締め煮】
【断片投げ】
【ゴザレみりん干し】
見た事も聞いたこともないお店ばかり。
たくさんの赤提灯が列になっている。
その景色はとても幻想的だった。
笑い声が響く深夜の校庭に、何かが焼けてうまそうな香ばしい香りが充満している。
「いやあすごい賑わってますね。なんですかこのお祭りは?」
「夏別祭と言って、夏の終わりのお祭りなんです。秘密のお祭りです」
「カ・ベ・ツ・サ・イですか…こりゃすごい」
その後私は得体の知れない夜店の料理をご馳走してもらい、ゴッドカーネルと呼ばれている冷えた酒も飲ませてもらった。
どれも初めて飲み食いしたのにも関わらず、どこか懐かしい味わいに私は心から喜びを感じていた。
「全部美味しいです。ありがとう」
「そうでしたか。そろそろメインイベントです。さあさあこちらへ…」
*****
プールの脇。
特設の盆踊り会場のようなものが出来ていた。
「さあさあ踊りましょう」
知らぬ間に先ほどの男達も合流し、総勢50人くらいで中央の大太鼓をグルリと囲う形となった。
私も何がなんだか分からないまま、その場所に合流させられた。
「皆様それではじめますよー!」
司会のネジリハチマキにナイトキャップの女が拡声器を使って叫んでいる。
「ちゃんかちゃんかちゃーんのちゃーんのちゃん、ほーら!ちゃんかちゃんかちゃーんのちゃーんのちゃん」
会場に、何度も再生したせいで若干伸びてしまったであろうカセットテープの音源が流れ、先ほどの司会の女が中央で大太鼓を叩き始めた。
「ちゃんかちゃんかちゃーんのちゃーんのちゃん、ほーら!ちゃんかちゃんかちゃーんのちゃーんのちゃん」
私も良く分からないが、見よう見まねで踊りに参加した。
それでも自然と笑みがこぼれているのは自分でもすぐに気がついた。
*****
踊り終えて、心地よい疲労感から、盆踊り会場近くの芝生の上に腰を下ろした。