One
One pair under the umbrella
「……お父さん」
それは、ちゃんと届くことが分かって言うのには、久しぶりすぎる言葉。
「うん?」
「元気に、してた?」
同じ傘、すぐ傍歩くその姿に、記憶の中の面影をうっすらと照らし合わせる。
何も知らなかった頃じゃない。今ならちゃんとその姿を焼きつけることができる。
「ああ。この通り、な」
「そう……。よかった」
何気ない会話。でも、それだけでもほっとする。
「……今は、大学生か?」
「うん。○○大」
「じゃあ、下宿なのか?」
「そう。もう、外へ出たくなったから」
「そうか。近いし、お父さんのところにだったら、いつでも頼っておいで」
きっと、お父さんはもっと会いたいんだ。今まで、会えなかった代わりに。