天界での展開 (3)
サルと サルトルの親戚と
「こいつは、面白くなって来たぞ。おいらは、この世界でも一旗揚げてやろうと思っていたところだ。双六、お前もわしの手足とならんか。」
「それは、どうかな。だが、あんたが出世すれば俺の頂けるものも多くなるって事だよな?」
「そうじゃ。」
「分かった。じゃあ、取り敢えず美味いものが食べたい。何処か行きつけの食べ物屋に連れていってくれないか。」
「お廉い御用じゃ。」
「・・」
「さあ、此処がおいらのお気に入りの食べ物屋じゃ。金の事など気にせず何でも注文しろ。」
「じゃあ、取り敢えず、鶏の照り焼き丸ごと一羽とコーラ。それから、ワンタンスープ、炒飯3人前。あんたは・・?」
「握り飯と酒じゃ。」
「それだけ・・?」
「そうじゃ。今は、将来の為に金を貯めておかねば・・」
「なるほど、・・じゃあ、俺も協力するよ。コーラは要らないから。」
「他は、・・お前一人ですべて食べる気なのか?」
「当り前だ。考えてみれば、此処に来てから何も食べていない。・・そうだ、思い出したぞ!」
「急に大きな声で、一体何だ?」
「俺の死因に付いてだ。俺はな、あの日、夕食を取っていた。土木人足は、体力仕事だ。だから、仕事を終えて家に帰る時、俺は、今晩の夕食は何だろうかとだな、あれかな・・はたまた、これかな・・と、もう楽しみながら帰るんだ。その日は、鶏のから揚げ・野菜サラダ・炊き込みご飯・カルシューム不足を補うシシャモとイワシ、勿論、主食は白い御飯だったと思ってくれ。俺は、空腹を満たす為に手当たり次第に食べていた。気付けば、大好物の鶏のから揚げが残り少ない。家族4人に対し、残っているから揚げは三切れ。つまりだな、うかうかしていると、他の三人が美味しそうに食べる最後のから揚げを、俺だけが指をくわえて見ていなければならない状況じゃないか。特に俺の女房は、食べる事に関して、ずば抜けた能力を持っている。例えばだな、カップ麺などは、二口で麺の殆どを胃袋に流し込む。そして次に、カップに残ったスープを一気に飲み干してしまう。そこで一休みするのかと思えば、麺類に変わりはないとばかりにスパゲティー・ミートソースを2皿食べるぞと宣言して、すぐに食べるのかと思えば、手に取るのは大盛りの野菜サラダだ。このサラダを手づかみで大きな口に押し込む。この時、彼女の目はあくまでスパゲティー二皿から放れない。他の家族は、もう、その食べっぷりに言葉も出ない。子どもの一人など、『母ちゃんの食べているところを思い出すだけで、お腹いっぱいになる』と言うし、もう一人の子などは、恐ろしいほどの食べっぷりを夢に観て泣き出す事も珍しくない。いや、こんな話をすると、女房を殊更に悪く言っていると思うかも知れないが、食べている時の女房は、殺気立って近づき難くてもの凄く怖いけれど、他の家事を熟す時は、ただ普通に怖いだけなんだ・・」
「・・一体何が、言いたいのじゃ?」
「ん・・? ・・あっ、そうだ、そこでだな・・」
「そこで って、話の途中の、どの辺りでの そこで じゃ?」
「え~~と、俺は、何の話をしていたのかなぁ・・」
「死因じゃ。お前が、何故死んだのかを話そうとしていた。」
「そうなのか? じゃあ、俺はな、あの日、夕食を取っていた・・」
「それは、冒頭に聞いておるわ!」
「そうなのか? ・・一体何処で、話が変わっちまったんだろう・・ どう思う?」
「知るかっ!」
「お待たせ致しました。おにぎりと酒、鶏の照り焼きです。」
「おっ、ご苦労様。じゃあ、話の続きは、食べながらって事で、頂きま~す。」
「・・・」
「・・ん? おい、サル! この鶏、何も味がしないぞ・・俺は、気付かないうちに妙なウィルスにでも侵されたのかな・・ それとも、あんた、賞味期限が半年以上も過ぎてるものを注文したのか?」
「その様な事はしない。良いか、よく覚えておけ。この天界では、すべて食べ物は口に入れて味わいながら食べるのではない。食べ物それぞれの気を頂き、満腹感を味わうのじゃ。」
「・・それじゃぁ、例えば、あんたが酒を注文してだな、女給さんが酒を運んで来るとする。その酒を、あんたは飲まずに・・飲んだ気になって酔っ払うって事かい?」
「そうじゃ。」
「そ、そんな~~・・ それでは、食べたという実感など伴わないじゃないか。」
「お前が、どう喚こうと、天界の決まりじゃから。」
「人間の本能のひとつが、かくも簡単に奪われるなど、納得出来ない。何とかしろ!」
「これ、大きな声を出すな。只でさえ、その片袖のない死装束で充分目立って居るのだぞ。」
「片袖ないのは、俺の所為じゃない。閻魔さん処の秘書が、力いっぱい引っ張った所為だ。・・あっ、しまった! まだ秘書と姉ちゃんを待たせているんだった。済まんが、あんた、俺の注文したものを食べながら此処で待っててくれないか。」
「何だと? 先程と同じシチュエーションではないか。一体、何度行ったり来たりすれば気が済むのじゃ。」
「いや、俺も最近に無く忙しくてな。じゃあ、必ず待ってるんだぞ。」
「おい、待て! ・・と言っても、待たないか・・」
・・・
「あれ? 二人の姿が見えないぞ・・ まさか、あの二人、俺を待ってる間に意気投合して、いかがわしい宿にでも行ったのかな・・ 取り敢えず、主倍津阿センセの家の中を覗いてみるか・・・」
「キャ~~~! し、し、死人が・・」
「何? 死人ですと?」
「はい。ほら、あの窓の外から、こちらを覗いています・・」
「あ、ご安心下さい、奥様。あの者は、私達が連れて歩いている者で、先程お話致しました片袖を無くした者です。お宅の外で、主倍津阿教授のお帰りを待っている間に、あの死人は、一人だけで何処かへ行ったり来たりで、もう本当に困った死人です。・・これ、一二三院四五六居士、その様な処から覗かないで、中に入れて頂きなさい。」
「・・」
「・・・」
「・・」
「皆さん、こんにちは。」
「ああ、こんにちは。私は、主倍津阿と申します。」
「あ、こりゃどうも・・ さすがに偉いセンセですね、ちゃんと礼儀を心得ていらっしゃる。」
「これ! 一二三院四五六居士、主倍津阿教授に対して馴れ馴れしい口を利くのではありません。教授は、天界大学院で主として医学を教えていらっしゃいますが、哲学・神学にも知識が深く、私は、医学・哲学・神学の三部門で教えを請うておりました。また、教授のピアノ演奏は、玄人はだしだと専らの評判です。」
「そうですか。俺は学問の方はさっぱりでしてよく分かりませんが、兎に角素晴らしいセンセだという事ですね? 知り合ったのも何かの縁、この際、俺に足し算と引き算を教えて貰えませんか? あ、出来れば漢字も。」
「これ!」
「構いませんよ、純真くん。学問を始めるのに年齢など関係ありません。それに、知ったかぶりをして話を合わされるより、遥かにマシですからね。」
「話の分かるセンセですね。ところで、学生時代の秘書さんは、一体どの様な生徒だったのですか?」
「それは、もう、学力優秀で、天界大学始まって以来の秀才と言っても間違いないでしょうね。」
「こいつは、面白くなって来たぞ。おいらは、この世界でも一旗揚げてやろうと思っていたところだ。双六、お前もわしの手足とならんか。」
「それは、どうかな。だが、あんたが出世すれば俺の頂けるものも多くなるって事だよな?」
「そうじゃ。」
「分かった。じゃあ、取り敢えず美味いものが食べたい。何処か行きつけの食べ物屋に連れていってくれないか。」
「お廉い御用じゃ。」
「・・」
「さあ、此処がおいらのお気に入りの食べ物屋じゃ。金の事など気にせず何でも注文しろ。」
「じゃあ、取り敢えず、鶏の照り焼き丸ごと一羽とコーラ。それから、ワンタンスープ、炒飯3人前。あんたは・・?」
「握り飯と酒じゃ。」
「それだけ・・?」
「そうじゃ。今は、将来の為に金を貯めておかねば・・」
「なるほど、・・じゃあ、俺も協力するよ。コーラは要らないから。」
「他は、・・お前一人ですべて食べる気なのか?」
「当り前だ。考えてみれば、此処に来てから何も食べていない。・・そうだ、思い出したぞ!」
「急に大きな声で、一体何だ?」
「俺の死因に付いてだ。俺はな、あの日、夕食を取っていた。土木人足は、体力仕事だ。だから、仕事を終えて家に帰る時、俺は、今晩の夕食は何だろうかとだな、あれかな・・はたまた、これかな・・と、もう楽しみながら帰るんだ。その日は、鶏のから揚げ・野菜サラダ・炊き込みご飯・カルシューム不足を補うシシャモとイワシ、勿論、主食は白い御飯だったと思ってくれ。俺は、空腹を満たす為に手当たり次第に食べていた。気付けば、大好物の鶏のから揚げが残り少ない。家族4人に対し、残っているから揚げは三切れ。つまりだな、うかうかしていると、他の三人が美味しそうに食べる最後のから揚げを、俺だけが指をくわえて見ていなければならない状況じゃないか。特に俺の女房は、食べる事に関して、ずば抜けた能力を持っている。例えばだな、カップ麺などは、二口で麺の殆どを胃袋に流し込む。そして次に、カップに残ったスープを一気に飲み干してしまう。そこで一休みするのかと思えば、麺類に変わりはないとばかりにスパゲティー・ミートソースを2皿食べるぞと宣言して、すぐに食べるのかと思えば、手に取るのは大盛りの野菜サラダだ。このサラダを手づかみで大きな口に押し込む。この時、彼女の目はあくまでスパゲティー二皿から放れない。他の家族は、もう、その食べっぷりに言葉も出ない。子どもの一人など、『母ちゃんの食べているところを思い出すだけで、お腹いっぱいになる』と言うし、もう一人の子などは、恐ろしいほどの食べっぷりを夢に観て泣き出す事も珍しくない。いや、こんな話をすると、女房を殊更に悪く言っていると思うかも知れないが、食べている時の女房は、殺気立って近づき難くてもの凄く怖いけれど、他の家事を熟す時は、ただ普通に怖いだけなんだ・・」
「・・一体何が、言いたいのじゃ?」
「ん・・? ・・あっ、そうだ、そこでだな・・」
「そこで って、話の途中の、どの辺りでの そこで じゃ?」
「え~~と、俺は、何の話をしていたのかなぁ・・」
「死因じゃ。お前が、何故死んだのかを話そうとしていた。」
「そうなのか? じゃあ、俺はな、あの日、夕食を取っていた・・」
「それは、冒頭に聞いておるわ!」
「そうなのか? ・・一体何処で、話が変わっちまったんだろう・・ どう思う?」
「知るかっ!」
「お待たせ致しました。おにぎりと酒、鶏の照り焼きです。」
「おっ、ご苦労様。じゃあ、話の続きは、食べながらって事で、頂きま~す。」
「・・・」
「・・ん? おい、サル! この鶏、何も味がしないぞ・・俺は、気付かないうちに妙なウィルスにでも侵されたのかな・・ それとも、あんた、賞味期限が半年以上も過ぎてるものを注文したのか?」
「その様な事はしない。良いか、よく覚えておけ。この天界では、すべて食べ物は口に入れて味わいながら食べるのではない。食べ物それぞれの気を頂き、満腹感を味わうのじゃ。」
「・・それじゃぁ、例えば、あんたが酒を注文してだな、女給さんが酒を運んで来るとする。その酒を、あんたは飲まずに・・飲んだ気になって酔っ払うって事かい?」
「そうじゃ。」
「そ、そんな~~・・ それでは、食べたという実感など伴わないじゃないか。」
「お前が、どう喚こうと、天界の決まりじゃから。」
「人間の本能のひとつが、かくも簡単に奪われるなど、納得出来ない。何とかしろ!」
「これ、大きな声を出すな。只でさえ、その片袖のない死装束で充分目立って居るのだぞ。」
「片袖ないのは、俺の所為じゃない。閻魔さん処の秘書が、力いっぱい引っ張った所為だ。・・あっ、しまった! まだ秘書と姉ちゃんを待たせているんだった。済まんが、あんた、俺の注文したものを食べながら此処で待っててくれないか。」
「何だと? 先程と同じシチュエーションではないか。一体、何度行ったり来たりすれば気が済むのじゃ。」
「いや、俺も最近に無く忙しくてな。じゃあ、必ず待ってるんだぞ。」
「おい、待て! ・・と言っても、待たないか・・」
・・・
「あれ? 二人の姿が見えないぞ・・ まさか、あの二人、俺を待ってる間に意気投合して、いかがわしい宿にでも行ったのかな・・ 取り敢えず、主倍津阿センセの家の中を覗いてみるか・・・」
「キャ~~~! し、し、死人が・・」
「何? 死人ですと?」
「はい。ほら、あの窓の外から、こちらを覗いています・・」
「あ、ご安心下さい、奥様。あの者は、私達が連れて歩いている者で、先程お話致しました片袖を無くした者です。お宅の外で、主倍津阿教授のお帰りを待っている間に、あの死人は、一人だけで何処かへ行ったり来たりで、もう本当に困った死人です。・・これ、一二三院四五六居士、その様な処から覗かないで、中に入れて頂きなさい。」
「・・」
「・・・」
「・・」
「皆さん、こんにちは。」
「ああ、こんにちは。私は、主倍津阿と申します。」
「あ、こりゃどうも・・ さすがに偉いセンセですね、ちゃんと礼儀を心得ていらっしゃる。」
「これ! 一二三院四五六居士、主倍津阿教授に対して馴れ馴れしい口を利くのではありません。教授は、天界大学院で主として医学を教えていらっしゃいますが、哲学・神学にも知識が深く、私は、医学・哲学・神学の三部門で教えを請うておりました。また、教授のピアノ演奏は、玄人はだしだと専らの評判です。」
「そうですか。俺は学問の方はさっぱりでしてよく分かりませんが、兎に角素晴らしいセンセだという事ですね? 知り合ったのも何かの縁、この際、俺に足し算と引き算を教えて貰えませんか? あ、出来れば漢字も。」
「これ!」
「構いませんよ、純真くん。学問を始めるのに年齢など関係ありません。それに、知ったかぶりをして話を合わされるより、遥かにマシですからね。」
「話の分かるセンセですね。ところで、学生時代の秘書さんは、一体どの様な生徒だったのですか?」
「それは、もう、学力優秀で、天界大学始まって以来の秀才と言っても間違いないでしょうね。」
作品名:天界での展開 (3) 作家名:荏田みつぎ