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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(1)~(11)

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俺たちは台所の竈の前に腰かけて、俺はおかねさんにお米の炊き方を教わっていた。

「いいかい?こうして火を落としたら、しばらく蒸らすのさ」

おかねさんは、初めは弱火だった火を、薪を入れて強火にしてから、最後に火を消した。

あれ?これ…どっかで聞いたような…確かちっちゃい時にばあちゃんが…。

「あ、あ!これ…“はじめチョロチョロなかパッパ”!」

俺は思い出したことにびっくりして、思わず叫んでしまった。すると、おかねさんが驚いて振り向く。

「なんだいお前さん、そんなことは知ってるのかい?つくづく不思議な人だねえ」

そう言っておかねさんは笑顔になる。

「まあそうだよ。あとに続くのは、“ジュウジュウいうとき火をひいて、赤子泣くとも蓋取るな”さ。わかってるなら任せるよ。蒸らし終わったらお茶碗に盛っておくれな」

「はい、わかりました」

俺はお釜の前でしばらく待ってから、おかねさんが用意してくれたお茶碗にお米を盛る。そして彼女に手渡すと、おかねさんはまたびっくりして叫んだ。

「なんだいこりゃ!こんなんじゃあとでおなかがすいちまうよ!」

そして俺が持っていたしゃもじをひったくると、おかねさんはお茶碗にどんどんお釜からお米を盛っていく。

俺がそのごはんの量にびっくりする暇もなく、目の前には山盛りのごはん茶碗ができあがった。

「これでよし。おかずが少ないんだから、このくらいは食べないとね」

そうか。おかずはたくあんだけと言っていたけど、江戸の人はその分お米をたくさん食べるのかもしれない。

「悪いけど、お前さんの茶碗と汁椀はまだないからね、今日はこのあと、身の回りのものなんかを買いに出よう」


そのあと、おかねさんは俺に先に食事を済ませるようにと言ってくれたので、俺は言われた通りに手早く食べさせてもらった。そして、同じ茶碗にお米を盛り直し、おかねさんもたくさんのごはんを食べていた。