元禄浪漫紀行(1)~(11)
俺たちは台所の竈の前に腰かけて、俺はおかねさんにお米の炊き方を教わっていた。
「いいかい?こうして火を落としたら、しばらく蒸らすのさ」
おかねさんは、初めは弱火だった火を、薪を入れて強火にしてから、最後に火を消した。
あれ?これ…どっかで聞いたような…確かちっちゃい時にばあちゃんが…。
「あ、あ!これ…“はじめチョロチョロなかパッパ”!」
俺は思い出したことにびっくりして、思わず叫んでしまった。すると、おかねさんが驚いて振り向く。
「なんだいお前さん、そんなことは知ってるのかい?つくづく不思議な人だねえ」
そう言っておかねさんは笑顔になる。
「まあそうだよ。あとに続くのは、“ジュウジュウいうとき火をひいて、赤子泣くとも蓋取るな”さ。わかってるなら任せるよ。蒸らし終わったらお茶碗に盛っておくれな」
「はい、わかりました」
俺はお釜の前でしばらく待ってから、おかねさんが用意してくれたお茶碗にお米を盛る。そして彼女に手渡すと、おかねさんはまたびっくりして叫んだ。
「なんだいこりゃ!こんなんじゃあとでおなかがすいちまうよ!」
そして俺が持っていたしゃもじをひったくると、おかねさんはお茶碗にどんどんお釜からお米を盛っていく。
俺がそのごはんの量にびっくりする暇もなく、目の前には山盛りのごはん茶碗ができあがった。
「これでよし。おかずが少ないんだから、このくらいは食べないとね」
そうか。おかずはたくあんだけと言っていたけど、江戸の人はその分お米をたくさん食べるのかもしれない。
「悪いけど、お前さんの茶碗と汁椀はまだないからね、今日はこのあと、身の回りのものなんかを買いに出よう」
そのあと、おかねさんは俺に先に食事を済ませるようにと言ってくれたので、俺は言われた通りに手早く食べさせてもらった。そして、同じ茶碗にお米を盛り直し、おかねさんもたくさんのごはんを食べていた。
作品名:元禄浪漫紀行(1)~(11) 作家名:桐生甘太郎