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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(1)~(11)

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第六話 竈の火




「お前さん。ちょっと。ねえったらさ」

ぺちぺちと、また誰かが俺の頬を叩いている。ああ、数時間前みたいだ。

そうか。俺はまた時空の壁でも突き抜けて、きっと現代に戻ってきたんだ。だからこんなに頭がふわふわして、気持ち悪くて…。

すると、俺の胸元まで激しい悪心が込み上げ、俺は急いで起き上がった。

見ると目の前にまたおかねさんが居て、俺は戻ってなんかいなかった。でも、今はそんなことはどうでもいい。

とにかくトイレに!えーっと、なんて言うんだっけ…。

「あっ!むかむかするのかい?そりゃいけないね。さ、厠はこっちだよ」

おかねさんが慌てて俺を廊下に連れ出す。俺はそれになんとかついていき、吐き気はなんとか厠までこらえられた。




「それにしても、お前さんはお銚子一本しか飲んでないじゃないかさ。まったく、張り合いがないねえ」

そう言いながらも、おかねさんはたくさん並んだうちの最後の徳利を一気に傾けてぐい飲みに出してしまうと、それを一息に飲み干す。

俺は日本酒を徳利一本飲み干したところで酔っぱらって眠り込んでしまい、そして目が覚めて、食事を戻してしまったらしい。

「でもさ、加減を悪くしたんなら早く帰らないとね。ほら、立てるかい?」

おかねさんはそう言ってすぐに俺に手を差し出してくれた。

ああ、やっぱり綺麗な人だな。俺の前に居るなんて、もったいないくらいだ。

俺はもう気持ちが悪い感じはなかったけど、その時彼女が俺を気遣うために微笑んでいたから、黙ってその手を取り、大人しくあとについて歩いた。







翌朝も俺は、おかねさんに叩き起こされた。

「ちょっと!いつまで寝てるのさ!秋兵衛さん!ちょいと!起きとくれよ!」

「あ、はい…はい…起きます…」

「やっと起きた。さあさ、お前さんは今日からうちの下男だよ。ああおなかがすいちまった。ごはんを炊いておくれな。お米は水を測ってあるから、早く火を起こしとくれ!」

俺はおかねさんの羽織を体からどけて、どっこいしょと起き上がる。布団は一組しかないし、一緒に寝るわけにはいかないと俺が断ったので、俺は畳の上に寝て、羽織をかぶって丸まっていた。うう、あちこち体が痛い。

起きたばかりだし、二日酔いを起こしていたので、俺はちょっと水が飲みたかった。でも水を得るには井戸から汲まないといけないことくらいはもうわかっていたので、それはあとにしようと思った。

そして、俺には強みがあった。俺はキャンプに一人で行くことがたまにあったので、炭や薪の扱いなら慣れている。これなら、教わらなくても怪しまれずに火を起こせるかもしれないぞ!

そこで俺は改めておかねさんに「おはようございます」と言ってから、台所とおぼしき場所に立った。

そこには、おそらく「へっつい」と呼ばれるのだろう竈が一つだけあった。一口しかないのか。これじゃお米を炊くことしかできなさそうだ。

「おかねさん、おかずはどうするんですか?」

「たくあんがあるよ。昨日ちょうどお前さんが倒れてたとこの漬物屋で買ったものさ。あたしはちょっとはばかりに行くから。帰るまでに頼むよ」

ええっ!?おかずがたくあんだけ!?それはおなかがすいてたまらないんじゃないか!?

俺はそう思いはしたが、「今日から下男」と言われたからには、おかずくらいで文句は言えないので、黙っていた。


さて、火を起こすならまずライターかマッチを…と、そこまで考えて俺は気づいた。


江戸時代って…ライターもマッチもないじゃないか!


俺は即座に混乱し始め、へっついの前で両手を揺らしている恰好でしばらくあたふたとしていた。そこへ、おかねさんが厠から戻ってくる。

「なんだい、まだ何もしてないのかい?何ぼーっとしてんだい!早くしとくれな!」

俺はもう泣きそうだった。だから、その時の俺はよほど困っている顔をしていただろう。そのことにおかねさんも気づいてくれたのか、急に体をかがめ、心配そうに俺を覗き込んだ。

「お前さん…もしかして、火の起こし方まで知らないのかい…?」