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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(1)~(11)

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第一話 謎のお香






「あー…これは、捨て、かな…?」

俺は今、納戸のようになってしまった自分の部屋で、とにかくゴミを捨てている。この秋、二十三歳になった。なったというのに、部屋は片づけられないし、仕事もできない。彼女もいないし、友達も大して…。

そこまで考えて俺はため息を吐き、手元にあった古いカレンダーを、ぽいっと市の指定ゴミ袋に投げ入れた。






わけあって、仕事を辞めた。わけも何もない。上司を一切尊敬する気がなくなったから、辞めたのだ。

俺は大学を卒業してから、小説家になるのが目標だった。もちろんその夢が叶うまでも、日銭は稼がなくちゃいけない。だから適当に探した地元の料理店で、アルバイトをしていた。

俺が働いている中華料理屋の店長は、かなりのへそ曲がりだった。採用すると決めた時には、にこにこと笑いながら「頑張ってくれよ。うちもできる限り教える」なんて言ってたくせに、俺の目標が料理人ではなく小説家だとわかった途端に態度を変えて、いろいろと俺に嫌がらせをした。

まず、俺が洗い場に居た時に手渡してきたのが、持ち手を火で炙ったんだろう鉄のフライパン。そして、俺の近くを通る時に必ず店長は俺の足を蹴った。あとはもう、ネタを探しちゃ俺を怒鳴りつけて、今日はとうとう、一番言ってはいけないことを言ったのだ。

「お前な、小説家になりたいって言ったって、今の時代そんなもんで食ってくなんてできやしねえし、お前みてえに下らねえ人間にゃあ一番向かねえ仕事だよ。お前なんかにそんなことができるわけがねえ。やめちまえ、ばーか」

俺はそれを聞いて、度重なる理不尽もあって我慢の限界を超えたし、「さっさと次の仕事を見つけてれば、こんな下らない人間の相手をせずに済んだかもな」と思った。だから帰り際、俺は店長に一度頭を下げてからこう言ったのだ。

「すみません、店長。俺はあなたをこの店の店長として尊敬し、仕事を手伝う気にはもうなれません。だから辞めます。ロッカーの中には特に何もありません。お給料は店長の自由にしてください。その代わり、絶対に俺は辞めますから。それではいろいろとお世話になりました。失礼します」

それを聞きながらぽかんと口を開けている店長の前を俺は去り、ロッカーから鞄を手に取ると、家に帰ってきた。そして、心を入れ替えて綺麗さっぱり忘れる代わりに、掃除を始めたのだ。





それにしても、執筆の調べものや実際に小説を書くことばかりに熱中する毎日を送っていた俺の部屋は、とてもじゃないが言い表せないくらいに汚かった。

まず、掃除をしていないので埃が床に散らばり、なんだかわからないが砂のようなざらざらとした感触が床にあって、それから捨てるべきものがあるかどうかも気にも留めずに過ごしていたので、去年食べた弁当の空のパックなんてものまであった。

さすがに自分に呆れて、「これからは美しい生活を心がけよう」と思いながら、俺はついに、床がすべて見えるようにすることに成功した。とはいっても、小説の資料にした大量の本だけは、部屋の角に積み上げられていたけど。

「さーて、じゃあとはこの押し入れだけ…わっ!?」

俺が押し入れを開けると、中にあった物が支えを失くして、どどどどっとなだれ落ちてきた。俺は必死に両手でそれを押さえようとしたけど、小さなものも多かったのでそれは俺の腕をこぼれて次々にまた床を埋めていった。

「…あー…またかよ!!」

俺は、また一から掃除をしなければいけないことに嫌気が差して、思わずそう叫ぶ。

しかし、やってしまったことは仕方がない。とにかく俺は、「のちのち役立てる予定すらない物」を、すべて新しいゴミ袋に突っ込んでいった。






ほとんどの物を片付け終え、いくらか必要な物をまた押し入れに並べて突っ込んでから、俺は何かカサカサした物を踏んでいることに気づいて、足をどけた。

「なんだこれ…?」

俺が手に取ったのは小さなきんちゃく袋で、それは紙で作られていた。もうぼろぼろになった紙袋はあちこちが破けて、中から粉のようなものがこぼれ出ている。

「ああっ、また掃除機か!」

俺はそれからなんとなくテーブルの上に置いた古い古い紙のきんちゃく袋を背後に、改めて掃除機を掛けて、それから夕食を食べた。