愛しの幽霊さま(11)~(14)
第13話 私と時彦さんの出会いと別れ
私の枕元で、スマートフォンが振動している。着信音は鳴らない。今は誰にも構ってほしくないから。
でも、その振動は長いこと二度続いたので、二度目で私は手に取って画面を見た。
「舞依…?」
昨日、舞依は家に来てくれた。でも、それなのにまた電話を掛けてきたってことは、何か重要な用件ってことよね。
「出るかぁ…」
私は、舞依からの電話に出て、「はい」と言った。その声からはまるで気力が抜けているのが分かったけど、もう隠しておくことも辛くてできなかった。
“雪乃!やっと出た!ねえ、わかったよ!時彦さんのこと!私、話したから!”
電話の向こうで舞依は、大喜びしたように勢い込んで話している。私はそれをどこか遠くに聴いている気分だったけど、「話した」というのが引っ掛かった。
「話したって、誰と?」
“時彦さんと話したの!それで、雪乃に説明したいって!”
え?なんですって?
私はそれまでベッドに横向きに寝転んで、片耳の上にスマートフォンを乗せ、部屋にあるぬいぐるみを抱きしめた格好のままだった。でも、舞依が口にしたことに急いで起き上がり、胸を押さえる。
“雪乃が見たのは、時彦さんと、妹さんだって!”
えっ…。
「えええ~!?」
翌朝、私はお母さんに「今日は駅前に出かけてくるね」と話をした。
「まあ、一昨日まで休んでたのに、大丈夫?」
「うん、もうよくなったから。それに、大事なお出かけなの」
「…そう。じゃあ、気を付けて行ってらっしゃい。明日は学校には行けそうなの?」
「うん!あ、それと、この服…変じゃないかな?」
私がそう言うと、お母さんはお皿洗いをしていた両手をタオルで拭いてから、ぐるりと私の周りを一周してみせた。
「…うん!どこから見てもかわいいわ!」
「ありがとう!じゃあ行ってきます!」
待ち合わせはローカル線の終点で、大きな駅の前だ。私が時彦さんと、妹さんらしい女の子を見かけたバス停のある駅。そこには駅ビルの中に喫茶店があったので、私と舞依はそのお店の前で立っていた。
「ねえ、ほんとに来るかな?」
「来る!来なかったら、電話で文句言ってやる!」
「ちょ、ちょっとぉ、大丈夫だってそんなに息まかなくても…」
私がそう言って舞依の方を向いた時、その向こうに見える改札口から、背の高い男性が出てくるのが見えた。私はその瞬間、自由を奪われたように、その人を目で追っていた。
あの時のように。
そして時彦さんは私たちのところまで近寄ってきて、少し距離を取ったところで挨拶をした。
「初めまして。こんなところまで、ごめんね二人とも。君が舞依ちゃんかな?」
時彦さんはスーツ姿でネクタイを締めていた。私はそんな時彦さんは初めて見たから、突然彼が大人になって現れたのを見たかのように、ときめいてドキドキしていた。
いや、元々大人なんだけど…。
「今日は、よろしくお願いします」
先に舞依がそう言って頭を下げる。私もそれに倣って、慌ててお辞儀をした。顔を上げてなんとなく舞依の方を見ると、舞依はどこか厳しい目で時彦さんを見つめていて、時彦さんは困ったように笑っていた。
「じゃあ、お店に入って早く休もう」
時彦さんがそう言った時、彼の目は、私を見ていた。
作品名:愛しの幽霊さま(11)~(14) 作家名:桐生甘太郎