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Re Start (掌編集~今月のイラスト~)

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 すると、『友達に誘われたからなんとなく始めただけ』だったはずのテニスが面白くなって来た。
 そして3年間スポーツから遠ざかることでなまっていた身体に力が戻って来るのを感じると、苦い苦い思い出と結びついているはずの塩素消毒の匂いが懐かしくなって来る……。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

「早苗か! もちろん大歓迎だよ」
 ウチのクラブが出した『学生コーチ募集』の広告を見て、早苗が応募して来たのだ。
「でも、募集してるのは小学校低学年向けの『水泳教室』レベルのコーチなんだけど……」
「ええ、募集要項にもそう書いてありました、あたしは5年も水泳から離れてましたし、コーチとしては初心者ですから」
「そうかい? いいんだね?」
「と言うより、そのくらいの子供たちに水泳の楽しさを教えられたらいいなぁって思うんです……」
 早苗はそう言って微笑んだ。

 そして、今日がその初日なのだ。
「水着、久しぶりなんですよ、選手時代のは全部処分しちゃってて……」
「別にビキニでも構わなかったんだけどね」
 そう軽口を叩くと、軽く腹を小突かれた。
「冗談だよ、競泳用を新調したのか」
「ええ、でもなんだかまだ体にしっくり来なくて」
「ははは、3歳から12年も泳いでたんだ、すぐに馴染むさ……バインダーとペンはここに置いておくからな」
「あ、すみません、新米がヘッドコーチに気を使わせちゃだめですね」
 早苗はそう言って笑いながらまた裾を直した。
 新品の水着がまだ体に馴染んでいないから、ではなく、これは昔からの癖、早苗の体がまだ水泳を忘れていない証拠じゃないかと思う。
 もうすぐ早苗が受け持つことになるクラスの子供たちがワイワイとプールサイドに集まって来る。
『もう少しでオリンピックに出られそうだったコーチ』だなどと紹介するつもりはない、あくまで大学生のお姉さんコーチで良い、早苗もそう望んでいるだろうと思う。
 早苗はまだ20歳、今からでも本気で目指せばオリンピックだって全くの夢物語と言うわけでもない、だが、プールサイドに集まり始めた子供たちを見る早苗の柔らかな表情を見ればそんな思いや欲はどこかへ飛んで行ってしまう。
(もしかしたら、あの時オリンピックに出られなくて良かったのかも知れない)とすら思う。
(メダリストになれなかったとしても、オリンピアンとなればその後の人生には少なからず影響はあるはず、神様は早苗にそんな人生を送らせたくなかったのかも知れないな……疾走(はし)り過ぎて躓いてしまったが、今、リスタートを切れたようだ……)
 俺はそんなことを思いながら、子供たちを迎える早苗の後姿を見ていた。