サイコパスナイト 承
9月になると、補修のためにマンションの外壁に足場を組む作業が始まった。と同時に、上階が工事の音を偽装して、物凄い音を出すようになった。もちろん昼間に。時折工事がない時にもその攻撃はあったが、基本的には工事と同時に、だった。しかも、工事の音とそっくりなのだ。部屋の直ぐ前で工事がある場合、部屋の中の攻撃音から逃れて部屋の外に出ると、目の前の工事音はずっと小さいのだ。参考までに書いておくが、マンションでは補修工事の音が五月蝿すぎるという苦情が来てるが、僕にはそれは大したことはない。上階の工事偽装の騒音攻撃の音のレベルは尋常じゃなかった。多くの場合、僕のいる場所を特定して、その上で出されるのだ。
そして9月30日が来た。その日の前日だったと思うが、僕は警察を呼んだ。警察は何をしたかというと、僕に話を聞いた後に、マンションの玄関まで行って、インターフォンで話しただけだ。話にならない。後でその話を聞くと、亭主を名乗る者が出たという。ガキではないようだった。
僕は、補修偽装攻撃が始まった時から、上階の様子や攻撃の仕方が若干変化したように感じていた。そして警察の話から、多分ベロとベラ以外の男性がいると思い、上階に行きインターホンを押した。すると、大柄な50歳くらいの男が出てきて、自分は亭主だという。彼をベムと呼ぶことにする。
一言二言話したら、彼はいきなり警察を呼ぼうと言い出す。それに問題はないが、話が唐突だった。話が飛んだのだ。奇妙に思っていると、女性の声がする。あれっと思ってみると、そこに居るのはベラではない。横顔しか見ていないが、ベラとは違う。さらに、声はベラとは完全に違う。彼女は警察は110でいいんだっけと、ちょっとわざとらしく聞いてくる。
彼らは警察に連絡したと言って、僕とベムは話を続けた。驚いたのはベムの会話術だ。嘘を事実だと言いくるめる技と迫力があるのだ。僕も一瞬騙されそうになる。そして、騒音を出しているという証拠を出せと言い出す。だから、ICレコーダに録音しているというと、聞かせろという。そしてそれを取りに行くと、ない。何処を探してもない。
戻ってベロに見つからないと言うと、嬉しそうにして”ないなら諸王がないね”と優しく言う。今までの人を追い詰め誘導しようとする迫力の話し方はどうしたのかと思い、ICレコーダを盗んだのだろうと思った。いつかといえば、僕が夏に帰省していた時だ。通路に面した窓の鍵が空いており、9月になって侵入防止の柵が補修のために外されていた。8月に戻った時、そのドアのクレセント錠が開いていた。そこから、彼らはどうにかして僕の部屋に侵入して、柵を外して窓から出て、また柵を元通りに付けたと推定したのだ。もう、その証拠は消えている。
偽ベラと僕の住居への侵入の件で頭が一杯で、警察が来た時に彼らの手帳を確認するのを忘れてしまった。大チョンボだ。彼らが偽警官の可能性を残してしまった。警官の一人が僕の部屋を見て回った。それでも一応、彼の行動を僕は見てたから、彼が何かを仕掛けた可能性はまずないと思う。問題のICレコーダは、今年2021年になってから見つかる。そうすると、上階の奴らが僕の部屋に侵入したかは不確かになる。当時警官が偽物でないと思ったのは、上階の奴らが僕の住居に侵入していたと考えたからだ。しかし、侵入していなければ、僕の部屋を観察して上階の奴らに伝えた可能性がある。因みに、ICレコーダを見つけた場所は、彼らが隠したとは考えにくい場所だったので、僕がそこに、睡眠を妨害されてボーっとして置いた可能性が高い。そもそも、盗んだ物を戻すとは考えられない。
その後ベムと話していたが、ベムは相手を言いくるめる話し方を続ける。僕が、サイコパスインサイドという本がある。あなたの事が書いてあるから読んでみると良い。と言うと、彼は嫌な顔をして興味ないと言い、話は終わった。サイコパスインサイドを出したのは、2つの意味があった。1つは、サイコパスだという指摘を間接的に伝えるため、もう1つはサイコパスでも世の中の役にたてるしそうすべきという事を伝えるためだ。
ベムがやってると思われる工事偽装の騒音攻撃は、年内続いた。また、この時期に、煙攻撃が始まる。ベランダに、タバコ等の匂いがするのだ。こう書くと、何処かでタバコを吸ってる奴の煙がと思うだろうが、それは違う。僕がベランダに出た時やベランダの窓を開けた時だけ、煙が臭うのだ。これが始まった時は、煙攻撃が始まる時は、ベランダの工事の足場の鉄に何かが当たる音がする事が多かったし、匂いがするまで少し時間があった。しかし今では、何の音もせずに、窓を開けて3~4秒で煙の匂いがする。ベランダに出る大きな窓の周辺に、圧力をかけて煙を出す仕組みがあるとしか考えられない。
年が明けた後は、騒音の出る工事は終わった事もあり、無くなったが。同時に、ベムもいなくなった。正確に言うと、年明け以降にもベムかもという事はあったが、極僅かだったし、ベムと断定するのも難しい。
9 いつまでも続く攻撃
年明け以降も、一日も欠かさず攻撃は続いた。この後暫くは、夜を中心にベロが起きている間は、ベロが監視と攻撃を行った。この頃は、ベロが寝ているのは僕の寝室の上の部屋。僕が昼間にテレビをみたり、寝室で横に横になると、御丁寧にベロは低音攻撃を始める。これは騒音攻撃が始まった頃からのものだ。こちらはどういう仕組みがわかりやすい。少し離れた2箇所で音が大きく、その中間は音が小さくなる。干渉しているのだ。つまり、ペアのスピーカで音を出しているのだ。そのスピーカは2セットあるようだ。少なくとも少し前まではそうだった。今はちょっと不確か。
上階の奴らは、以前はよく使っていたが、今は寝室の上以外では多くない。もしかしたら、工事偽装の騒音や、騒音攻撃前にベロがドリル音を出して僕の後をついてきた時も、このスピーカなのかも知れない。
ただし、一番重要な僕の居場所をどうやって認識しているかは、はっきりしない。振動か音でというのは確実だが。当初は僕の部屋の床下に大量のマイクを仕込んでいるのではと思ったが、今は上階の天井に穴を開けて、そこにマイクを仕込んで音か振動を感知していると思う。よくわからないのは、騒音攻撃が始まった当初は、ベロはわかりやすい行動をしてくれた。音か振動で監視していることをはっきりさせてくれたのだから。ただ、その感度の良さと、それ以上に僕の部屋で、というかリビングで出た音の位置を大体当てるのだ。天井にマイクを付けたらそれは難しい。当初僕の部屋の床下にと思ったのは、場所の特定が大体正確だったからだ。
しかしながら、僕がベロと居る部屋の下と、間に部屋を挟んだ場所で音を出しても、それは認識されないのだ。僕のいる部屋の上にいないと認識できないのだ。それで、天井にドリルで穴を開けてと思うのだ。騒音攻撃の前に、何度も上階でドリル音を響かせていたし。
作品名:サイコパスナイト 承 作家名:隊長