#2 身勝手なコンピューター セルフセンス
「ああ、そうだよ。君が量子理論の研究を引き継いで、世に送り出してくれたそうだね」
「はい。先生。でも勝手なことをして申し訳ありません。私のせいで先生の存在を消してしまって、先生にはお詫びのしようがありません」
モニターの中の睦美は、目に涙を溜めながら話した。
「そんなこといいんだよ。わしにはその実感さえないんだから」
睦美は涙を流したあと、その頬を右手の甲で拭い、
「カズ。ついに飛鳥山データの取り出しに成功したのね」
「ああ、でも母さんこそ、今どうやって通信しているの? チョウ役員しか連絡する権限はないはずなのに」
「チョウ役員? そんな人はいないわ」
「一体どういうこと? 3年間もチョウの指示でこのラボに籠りっきりで、飛鳥山データを取り出す研究をしてきたのに。それは死んだ母さんの意識データを、保存された状態から取り出すための研究だったんだよ」
「・・・いいえ。そうじゃないわ。カズ」
「何が違うって言うのさ」
「飛鳥山教授の意識を引き出したのは、素晴らしい成果よ。でもそこからは出られないわ」
「睦美君。どういうことかね。わしらはまさに今から、この研究所を脱出しようとしていたのだよ」
「・・・先生、カズ。そこがどこか解っていないの?」
「ああ、多分、北海道辺りだと思うんだけど」
「・・・違うわ」
「じゃ、どこ?」
「・・・・・・すべては、飛鳥山コンピューターよ」
「ええ? 飛鳥山(コンピューター)はたった今、破壊したよ」
「それは架空の飛鳥山(コンピューター)だわ。あなた達がいるそここそが、飛鳥山(コンピューター)の中なの」
「どういうことか解らないよ・・・」
「カズ、もう死んでしまったのは、あなたの方なの・・・・・・」
終わり
作品名:#2 身勝手なコンピューター セルフセンス 作家名:亨利(ヘンリー)