端数報告3
こうだ。56ページで35000語と言われてもピンとこないが、ここでひとつ、おれの創作の秘密を明かそう。古いSF小説にA・E・ヴァン・ヴォクト著『スラン』というものがあってね、おれは昔に図書館で借りて読んだんだが、巻末の翻訳者のあとがきに、
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しかし、なによりもこの作品に長い生命を与えているのは、若いふたりの主人公、ジョミー・クロスとキャスリーン・レイトンが、一難去ってまた一難式の危機をいかに切り抜けてゆくかという、サイレント映画時代の連続活劇を思わせる、スリリングで緊迫したストーリーの展開だろう。後年、ヴァン・ヴォクトが創作の秘密を語っているところによると、彼の作品はつねに約八百語(本文庫の組み方で3、4ページ)の長さの基本単位で組み立てられており、その最初と最後に状況を明示するとともに、シークエンスごとに一つの山を作ってゆく手法をとっているそうである。それを頭においてこの作品をお読みになれば、またちがった興味があるかもしれない。
画像:スラン表紙
こう書いている。おれは「これだ」と思ったんで、
セントエルモの灯
https://2.novelist.jp/68292.html
これを書くのに文庫本3、4ページの分量を基本単位で話を組み立て、その最初と最後に状況を明示するとともに、シークエンスごとに一つの山を作ってゆく手法をとることにしたんだが、うまくいったかな。とにかく、800が3か4なら、英単語200から250が日本の文庫本1ページに相当することになる。
35000語なら文庫本150ページほどということになる。それを当時のインターネットでまともに読んだら通信料はいくらになるのか。
わからないけど、そんな頃にいち早くネットにドップリ浸かってるような女がだな、
《産業革命とその結果は、我々人類にとって災難であった》
なんて始まる文を評して新聞が、
《声明文の第一項は、アメリカ国民にとって重要で、我が国の政治的課題の中心に置かれるべき》
と書く。これに頷き、
「ほら。思ってたよりわたしも結構マトモだったでしょ?」
と言う。これが頭がカラッポな人間でないと言うならどんなやつが頭がカラッポだということになるかって話だ。ユナボマーの言うことが、わかってないのにわかったつもりになっている。この女はそうだというのが、おわかりになりませんでしょうかね、皆さん。
栗山千明の番組の初回放映は今月6日。〈スーパー!ドラマTV〉の『マンハント第6話』が翌7日。おれは6日に栗山千明を見てさ、ユナボマーの声明文が、
画像:ダークサイドミステリー「ユナボマー」より声明文冒頭部
こう始まっているのを見て、見た途端に、
「こりゃ誰かの受け売りだろう。それも相当に頭の悪いボンクラ学者の」
と思ったんだ。しかしそれを栗山千明と、栗山千明は美人だからまだいいとして三人の気味悪くちっぽけでつまらない感じの男達が、
「これは天才だ、天才の文です。なんという独創的で、斬新で、卓見した考えでしょうか。実に聡明なものを感じる!」
とか言って囃している感じなのでただ「バカ」とだけ思いながら、早送りして見て、見終わったところですぐ消したんだ。得るものはなかった。時間を無駄にしただけだった。というのが結論でね。
そしたらその翌日が『マンハント』の第6話だよ。うわーん、きのうの栗山千明を消すのはまだ早かったあ、と後悔したね。すぐに再放送があって助かったけれどもさ。
「人々はぼくを見て尊敬し、ぼくの考えが正しいとわかってくれて、世界の支配者にしてくれるでしょう」
とドラマで16歳のカジンスキーは、スクリーンに投影された映像で言う。本当にこんなことを言ったのか。作劇上の脚色じゃないのか。という疑いも感じるけれどまあやっぱり、言ってるのは言ってんだろう。人はカメラを向けられると何もかもが変わるという。飛び級制度はなんとかアスカ・ラングレーみたいな人間を作るだけで、ポキリと折るのは実に簡単なことかもしれない。前回見せた『空想科学論争!』で、柳田理科雄は円道祥之と、
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円道「柳田さんは種子島の出身なのに、中学・高校は鹿児島市内の学校ですよね。なぜ種子島の学校に行かなかったんです?」
柳田「小学校の先生が父に言ったらしいのです。「このまま島内の学校に進めば、理科雄君は天狗になってしまいます」と。どんな子供だったのか、自分でも気になるなあ」
画像:空想科学論争!表紙
と話している。カジンスキーはその遙かに上をゆく早熟ではあったけれど早熟過ぎて、食えたもんじゃない青リンゴだった。ただ計算ができるだけの人間カシオ電卓に過ぎず、コンピュータウイルスのごときダークサイドのミームに簡単に脳をやられる。それは〈強い〉のでなく〈容易い〉んだよ、ルーク。しかし彼には導いてくれるヨーダはおらず、代わりにダースベイダーなヘンリー・マリー教授がいた。
と、そういうわけだったんですね、ふうん。しかしマレーとマレーの言う〈ハーバードで最も有名な思想家達〉っていうのも決してほんとの本当に頭のいい人間達なんかじゃないよな。こんな青リンゴ、と言うか、時計仕掛けのオレンジ小僧にあんまり本当のことを言ったら、何をするかわからんやつになるかもしれんとわからなかったのか。
まあ、わからなかったんだろうが、せっかくも一度録画し直したんだから、栗山千明の番組の方をよく見てみよう。おれは前回「三人の学者」と書いたがいつも早送りしていたため知らずにいたことに三人の駄弁り男のうちひとりはこのように、
画像:青井実
NHKのアナウンサーだった。だからこいつは外して、ふたりのうち片っぽは越智啓太というやつなんだがいきなり言うのが、
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「そもそも、あらゆるタイプの事件というのは、だいたいこう見ず知らずの人を攻撃するということはほぼないんですね。だいたい恨んでる人を殺すというような感じなんですけれども、まあこれが基本になります。で、この場合はですね、まずどうも恨んでる人を殺してるんではない。しかもですね、犯行声明も出ないということで、目的もわかんないということでですね。この事件は今までになかったパターンのわけのわからない事件だなという感じを抱いたと思います」
画像:越智啓太
だってよ。恨み。グリ森事件の犯人達もグリコに怨恨を持つ者とされた。ちなみに2002年に起きた、
〈マブチモーター社長宅放火強盗殺人事件〉
というのが事件の名前の通りに小型モーターの世界ナンバー1企業の社長の宅に賊が押し入り家人を殺し、火を放って逃げたというものでマスコミが「怨恨」と叫び、警察もまた「怨恨」と断定。ただそれだけにマトを絞っての捜査がされたが数年後に捕まったのは〈会社四季報〉で有名企業の社長宅を、おれが靴の通販やDVDのカタログで物を選ぶように見つくろった者達だった。
画像:スニーカーとDVDカタログ