端数報告3
もちろんすぐに見に行った。それがすなわち数寄屋橋の宝くじ買い行列を横目に過ぎる最初の季節で、その年の暮が二度目。翌年夏の『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』の季節が三度目というわけだ。
おれ自身が自活生活を始めた矢先。そんなときに見たもんだから、主人公のキキがまったく他人に見えない。もうすべてに釘付けで、椅子にくくられ金槌で胸をガンガン打たれ続けた気分だったが、しかしそれが今回の本題でなく話はまた『スーパーカブ』だ。
画像:『運動靴と赤い金魚』より赤いスーパーカブ
『運動靴と赤い金魚』にもチラッと出るがこれひょっとして、日本の郵便局が使っていたもんじゃねえだろうな。カブと言えばこうだよな。やっぱり決してカッコいいもんじゃないけどそれでもやはり、もしもおれが原付を買うとすればこれだろうな。
で、アニメの『スーパーカブ』だが、第1・2話には結構やられもしたんだけれど、第3話がいただけない。『魔女宅』がラストの飛行船事故なしで終わりでもしているみたいで、リストのピアノ曲なんか流して、
「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」
と自己完結されても困る。
夢オチはないだろうが夢オチは。ここまでを第一部とするんだったらやはり、何か白熱するものがないと。多くの人が為す術もなく見守り、カメラまで向けられるなか、まともに飛ばない箒、いや、デッキブラシを必死に操り、少年の手を掴もうとする。それでこそ主人公というものであって、しかしこいつはしょせんスーパーカブと言うか、スロットルをちょっと開けただけで満足するなと言うか、これに限らずどうも話が全体に不完全燃焼気味なのである。
やはり主人公に親がいないのを「親はいない」のひとことで済ませているのがよくない。おれが書くなら第3話はまるきり変えて、前半でなぜ親がいなくてひとりで暮らすことになったかを説明し、後半は不良にでもからまれて、カブだから走り抜けられる道を見つけて逃げる話にでもするところだ。たとえばカブなら泥の中でも走れるだろうから、とか……でもまあ、それはおれが書いたらそういうものになるという話だとして、他にもな。これは変だと思うところは多い。
画像:ベルト誤
たとえば、これだ。前回時計の写真を撮ってるときに気づいたんだが、このベルトの向きは変だぞ。逆だ。正しくは、
画像:ベルト正
こう……いや、そんなのはどうでもいい。『魔女宅』のキキはフライパンなど買い揃えながら「暮らすって物入りね」と言う。おれはあの夏のひとり暮らしを、歯ブラシ一本から始めて最初は銭湯に行き、コインランドリーを使っていた。しかし『スーパーカブ』の主人公の部屋にはまるで最初からあったもののようにして、一通りのものがある。
電子レンジに炊飯器にガスコンロ。冷蔵庫もひとり住まい用としては大きなものが置いてある。中には麦茶とリンゴジュース、マーガリンとイチゴジャムとケチャップとマヨネーズしか入ってないが。
テーブルには最初からそれひとつしかないかのように椅子が一脚。弁当箱にご飯を詰め、保冷ボトルに麦茶を入れて学校に行く。どれもこれもが『運動靴と赤い金魚』の一家の住まいにないものだ。
「お金はない」と言いながら、最低限の生活費はどこかから毎月送られてくるようにでもあるらしく、一万円のバイクを買って千円の時計と靴を買う程度の自由は利くらしい。しかし夜のコンビニに行っても中に入るのは「我慢」と言って我慢する。何を我慢してるのだろう。最近はどうせ中に入っても雑誌の立ち読みなんかできなくなったから、週刊誌の、
「今週のロト6はこの番号が当たります!」
なんていうのを読めもしないわけではあるが。
画像:エリア88文庫版第11巻4ページ
アフェリエイト:エリア88文庫版第11巻
新谷かおるの『エリパチ』には、主人公の風間真が孤児院暮らしをしながらもマンガを買ってる描写がある。しかしこの子の部屋には学校の教科書以外、棚に一冊の本もない。
そしてまたテレビがない。テレビなんかこれは逆に『運動靴と赤い金魚』の一家にさえ、白黒のボロいものだがあるものなのに。
画像:『運動靴と赤い金魚』より白黒テレビ
代わりに短波放送でも受信するようなラジオがあって、ドビュッシーとか聞いている。わけのわからん子だな、と思うが何度か見るうち「待てよ」と感じるようになった。どうやら普通の高校生や、普通ではない上坂すみれが欲しがるようなものだけ我慢しているようだが、これはもしや、
という話だが今日のところはここまでです。続きは次回に。それではまた。