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運動靴と赤いスーパーカブ


  
アッカーマン「金槌しか持っていないとすべてが釘に見えるんだ。プロファイラーはプロファイリングで犯人が捕まると思ってる。パソコンオタクのギネリは『答はコンピュータの中だ』と言う。この5年間ずっとユナボマーの切手だけを分析している者もいるが、彼にはユージン・オニールの1ドル切手がすべてを解き明かす鍵なんだ。そいつには好きなようにやらせてるよ。理由はそう……まあ、言ってもしょうがない。だがわたしが『やれ』と言ったら、その通りにするんだ」
フィッツジェラルド「わたしは切手係ではなくプロファイラーです」
アッカーマン「切手係も自分がそうとは思っていないよ」
スタンコーネル「詳しい話を聞かせてやろう。何かわかるか? 全部ユナボマーのプロファイルだ。なんでも書いてある。遺例を知りたいか? いいだろう。《妻や子供が一度も入ったことのない秘密の部屋のある家》。または、《母親と一緒》。映画『サイコ』の主人公みたいにな。……これは傑作だ。伝説のプロファイラー、ジョン・ダグラスがユナボマーのクルマのメンテナンスについて20ページも書いてる。ちなみに、《エア・フレッシュナーは針葉樹の香り》だ。一流のプロファイラーすべてに分析を頼んだがみんながみんな『はじめからやり直す』と言う。そして全員、違う結論を出すんだよ。悪いがそのせいで、お前の仕事に疑問を感じてる」
 
画像:マンハント番組タイトル マンハント:謎の連続爆弾魔ユナボマー第1話
 
石田衣良・著『池袋ウエストゲートパーク』の第一巻が書かれたのは1997年だが、その第三話がイラン人の話なのはこないだここに書きました。ちょうどその頃のイラン映画と言えば『運動靴と赤い金魚』。
 
アフェリエイト:運動靴と赤い金魚
 
と言うか、日本でイラン映画と言えば今もこの一本だけしか知られていない。おれも他に知らない。これ一作だけを見てイランという国をなんでもわかった気になってはいかんし実際サッパリわからんが、それでも少しはこの国のプロファイル(横顔)を窺い知ることができる。
 
画像:スニーカーとDVDカタログ
 
たとえば、これだ。おれがいま履いてる靴は通販で千円もしないで買ったこれだがこんなもんですら、失くしたり履き潰したらハダシで生きるしかない層がイランにはあるらしい。一緒に置いた本は昔にタダでもらったレンタルビデオ屋のミニカタログだが、これによるとこの映画は、
 
画像:運動靴と赤い金魚の概要
 
こう書かれる。運動会で三等ね。一等や二等に比べたら簡単に獲れそうな気もするけどどんなもんか。
 
思いながらに見るとまあ、なんとなんとな白熱の展開が待っているという。どこがほのぼのだ。ほのぼのだけどさ。という、まあなるほどな傑作ではある。
 
運動会の三等は、ちょっと頑張れば獲れそうな気がする。宝くじの三等は、列に並んで買う人間を騙すための罠である。十万も買えば三等百万円が当たる確率が結構あるぞ。つまり90万の儲けだ。てことは、その百万を次のくじを買うのに使えば二等が当たるってことだ。そして来年に一等一億が当たるってことだ。
 
そう考える人間にそう考えさせる罠だ。うっかり三等百万円が当たってしまったがために狂ってしまう人間は多い。
 
おれが昔に破ったくじもひょっとすると三等くらい当たっていたかもなわけだけど、破り捨てたのが正解だ。おれはそう思うことにしている。
 
しかしいま考えるに、百万円ありゃ原付バイクを買ってたっぷりと余るよなあ。惜しいことをしたかもしれんが、とにかくだ。金槌しか持っていないとすべてが釘に見えるという。もう命しかなくなると、人間の命だけが邪悪な暴力に立ち向かえる最後の武器なのだ、などと、白い髭のじいさんが言ったアニメが昔あった。マスコミ人種は報道の力こそが新型コロナウイルスを倒せる武器だと考えるし、政治家は議会が世界の中心だから自分が議会で新型コロナウイルスを叫べば世の中を救えると考える。学者は日々の感染者数を、これだこの数字だと叫んでいれば自分が数を当てたんだから自分が全人類を救ったことになると思う。
 
ワクチン学者は「ワタシが作るワクチンだけだ。他の者が作るのはダメだ」と全員が言うが、するとすぐさま、そのひとりとちょっと知り合ったばっかりに、大槻ケンヂみたいなやつが二秒で話を信じ込んで、
 
「俺は知ったぜグリーコ300。大阪市立大学の博士が作るグリーコ300Mワクチン。ただこれだけが新型コロナウイルスから世界を救えるワクチンなのさ〜」
 
なんてな歌を作って歌い始めてしまう。
 
 
 
「わたしは大槻ケンヂではなくプロファイラーです」
 
 
 
オーケンも自分がそうとは思っていないよ。フィッツ。イラン映画を見ろ。と言っても『運動靴と赤い金魚』一本きりしか見れないけれど、
 
画像:『運動靴と赤い金魚』より路地1 路地2
 
こうだ。路地の真ん中に、下水を流す溝がある。S・キングの『IT』とか、映画『第三の男』に描かれるウィーンの街に第二次大戦前からあるような下水設備はないんだな。道が広くなるにつれて溝は深くなっていくが、お兄ちゃんの靴は大きく脱げてしまい、妹はそこに落としてしまうんだ。流れはどんどん速くなり、小さな女の子の脚ではとても追いつけなくなる。さあどうなる?という、おもしろそうな話だろう。
 
画像:『運動靴と赤い金魚』よりドブ1 ドブ2
 
そして、
 
画像:『運動靴と赤い金魚』より母1 母2
 
お母さんは腰を痛めているのだが、洗濯をしてお父さんに怒られている。洗濯機なんかないんだ。フィッツ。それがどういうことかわかるか。しかし、みんながみんな貧しい暮らしをしてるかと言えばそうではなく、
 
画像:『運動靴と赤い金魚』より高級マンション 噴水
 
カネはあるところにはあるもので、高級マンションが立ち並ぶ富裕層の区域があり、池袋西口公園にあるみたいな噴水がある。お父さんはここで庭師の仕事をしようとする。
 
画像:『運動靴と赤い金魚』より自転車1 自転車2
 
なんてことを言うのだけれど、しかし……という、この先は、レンタルでもして自分で見ろ。
 
 
 
2007年のNOVA女教師リンゼイ・アン・ホーカー殺害事件の犯人・市橋達也がどうしてハダシで逃げられたのかは謎であったが捕まってみると、100メートルも行かないところの道端でサンダルを見つけていたのがわかった。フィッツジェラルドがユナボマー事件の犯人セオドア・カジンスキーを捕まえると、彼には妻子などおらず、母親と同居しておらず、クルマを持っていなかった。大山鳴動してなんとやら、という話はいくらでもあるものだが、今のところ人類史上最大のものは1910年のハレー彗星パニックということになっているのかな。
 
今のところはね。というわけでまた『魔女宅』だ。おれが我が家の愛犬をジステンパーで死なせたのは1989年6月だが、そのすぐ後で東京に仕事と住むところを見つけて下妻の家を出ることになる。『魔女の宅急便』の公開はそのすぐ後の7月末。
 
作品名:端数報告3 作家名:島田信之