端数報告3
ねえ。怪しいよな、絶対。で、やっぱり元を正せばミスグリ加藤譲が書くからやったことだったりして。怨恨を持つ人間の仕業のように思わすとこだけ切って繋いだんじゃねえの? ポツダム宣言の最後の一行だけを見せたり、玉音放送の「堪え難きを堪え、忍び難きを忍び」だけを聞かすようなもんじゃねえのか、そんなの。
玉音放送。原文を読んでみるとこれがまた、
《朕は帝国とともに終始、東亜の解放に協力せる諸連邦に対し遺憾の意を表せざるを得ず》
とかなんとか、よくもまあまあな御託を並べて、呪いの白イタチどもに頑張り屋のガンバ様であるこの朕がひれ伏さねばならんとは堪え難く忍び難いと言っている。
でもしょうがない。国体の護符が何より大切なんだから。天皇の地位の保証だけ条件に降伏することにしました。てわけで帝国臣民諸君、アングロサクソンの奴隷になってくれたまえな!と言っている。
それが玉音放送だが、いやそんなことどうでもいいんだ。今は〈53年テープ〉の話で、果たして一連の犯行をしたのと同じ人物が吹き込んだものであるのかどうか。
わからないな。これだけでは。って、「違う」と言う気はない。ないけど、これを読む限りでは、おれが考える犯人像とやっぱり違う気がするな。
そのテープが具体的にどんなもんかわからないけど、暗い。宮沢賢治じゃない。玉音放送的であり、ポツダム宣言的である。聞いても何を言ってるかわからず、文字起こししてもわからず、「何が言いたいんだよ」と言うしかないようなもんなんじゃないのか。ウィキの記述を読む限りでは、どうもそんな感触を覚える。
〈黄巾族〉という名も暗い。〈KKK〉の白い布を黄色に変えているだけだろう。天藤真の『大誘拐』のように〈虹の童子〉とか名乗ってほしい。虹色輝きレインボウ、とか言ってほしい。せっかくのメッセージなら。
さらにそいつが部落解放だとかなんだとか、暗い話を一時間近く言い垂れてるというのがキモい。差別は良くない。良くないですよ。でもねえ、そんな調子だから余計に人に避けられ気味悪がられ、嫌われることになるんちゃいます? 宮崎勤の手紙みたいで、高村薫の小説みたいだ。ヲタク迫害の恨みごとや、中年女の更年期障害でエンエングチグチとものを言ってるだけみたいな……。
って、いや、だからそのテープがどんなもんか知らないけれど、推して知るべしな感じがさ。これを読んだ限りじゃしねえか。
それに対して、〈かい人21面相〉の手紙は陽気でノリがいい。ミスグリ加藤は「どこが」と言うかもしれないが、おれとしてはそう感じる。丸大ハムのキャッチコピーをもじって使ったりするし、遊び心があって強引。〈53年テープ〉の主と同一人物だとしたら矛盾があるのではないか。
Would you like paradox. パラドックスは好きでしょうとイーサン・ハントは〈マックス〉に言った。あなたは悪党なんだから。悪党人生、おもしろいんでしょ。なら矛盾が好きなはずだ。
「んっふふふ」
と〈マックス〉は笑う。〈53年テープ〉の主が〈かい人21面相〉というのはやはり、おれには違う気がするな。テープの主がグループの長だが、6年経って〈キツネ目〉という〈怪人〉を得て動き出した。『MI(1)』でイーサン・ハントが〈マックス〉に、「〈ヨブ〉に頼んだ仕事を代わりにやらせてくれ」と言う。あるいは、西崎義展が立てはしたけどその時点では、
「アメ公に敗けた〜、いいえ東亜に敗けた〜」
という感じでどうしようもないものだった『宇宙戦艦ヤマト』の企画が、松本零士が加わることで見違えるほどに明るく洗練されたものに生まれ変わったような。
そんなことでもあったんじゃあないかしらん。「かしらん」というだけの話だがミスグリ加藤は4月10日の放火の時点で、そのテープの存在を知っていたのか? どうだろう。ない話ではないと思うが。
たぶん、その録音を聞いたわけではないのだろうが存在だけ聞き知って、誘拐だの放火だの青酸菓子のバラ撒きだのと言ってるのを知っていた。〈茶色の記者〉が加藤だとして、〈読売〉にもう書いていた。刑事部長に言った、
「これまでかなり、そのう、脅迫文でえ、そういうことについてですねえ、今度はまあ、それに輪をかけたもんであるかという、そこらへんの感触は、部長個人としては……」
というのは、そのテープのことだった……。
なんてことだったりしないんかしら。どうだろね。と言ったところで今日はおしまい。それではまた。