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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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青い絆創膏(後編)

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「美子、また同じクラスだったね」

「うん、凛ちゃん」

始業式前の教室では、二年になったばかりで浮かれた生徒たちが、整わない輪唱のようなおしゃべりをしている。


私と木野美子は、いつの間にか仲のいい友達になっていた。

美子は心配性で、笑顔がほにゃっと可愛らしい女の子だ。

前に、その美子が私を見ながら、クラスの女子と噂話をしているように見えた時があった。

でもあとから美子本人にそのことを聞いたけど、それは、私が昼休みにどこに行くのか心配になって、聞き込みをしていただけだったみたいだ。

私がそれを見た時は「ニヤニヤしながら噂話をしてる」としか思わなかったけど、よく思い出してみたら、あの時、美子だけは顔が笑っていなかった。


「今日さ、一緒に駅前のお菓子屋さん行かない?動物の形の飴細工が新発売だってよ?」

「美子、甘いもの好きだね。まあ付き合うけど」

「いいじゃない」

「いいよ、行こう」


私はその朝も、たかやす君のことを思い出して、ふと悲しくなった瞬間があった。でも、学校に来て美子と話をしていたら、少し落ち着いた気もする。


「それでさ凛ちゃん、その駅前のお店でね…」

「ちょっと、美子」

「え、何?」

私は挑戦的な微笑みを想像し、自分の顔でそれを作って机に肘をつく。すると、美子はおどおどとし始めた。だから私は、強ばっていた顔を和らげて、もう一度美子に笑う。

「ちゃん付け、もういいって」

美子はなぜか赤くなって、いろいろと言い訳しながらも、これからは「凛」と呼ぶことを了解してくれた。





私は、もしかしたらまた屋上に行くかもしれない。それか、行かないかもしれない。

でも、もし行く時には、あの頃の正体を持たない透明な気持ちは、消えてしまっていると思う。

そこには、あの時とは違う、淡く心地よい色があるような気がする。





わたしと美子が帰る通学路には、あれから一年が巡った春の桜が咲きこぼれて、その姿を誇っている。雲一つない晴天に白い花びらが飛ばされて舞い散る様子は、どこか切なく感じるほどで、その分とても綺麗だった。


私は分かっている。何一つ解決はされていないこと。また泣きもするだろうこと。


“胸に青い絆創膏”


ふっと私の頭にそんな言葉が思い浮かんだ。


“私が知ってるのは、歩くことだけ”



「凛ー!置いてくよー!」

遠くで美子が呼んでいる。私は行かないと。

「待って、今行く!」






End.
作品名:青い絆創膏(後編) 作家名:桐生甘太郎