青い絆創膏(後編)
「美子、また同じクラスだったね」
「うん、凛ちゃん」
始業式前の教室では、二年になったばかりで浮かれた生徒たちが、整わない輪唱のようなおしゃべりをしている。
私と木野美子は、いつの間にか仲のいい友達になっていた。
美子は心配性で、笑顔がほにゃっと可愛らしい女の子だ。
前に、その美子が私を見ながら、クラスの女子と噂話をしているように見えた時があった。
でもあとから美子本人にそのことを聞いたけど、それは、私が昼休みにどこに行くのか心配になって、聞き込みをしていただけだったみたいだ。
私がそれを見た時は「ニヤニヤしながら噂話をしてる」としか思わなかったけど、よく思い出してみたら、あの時、美子だけは顔が笑っていなかった。
「今日さ、一緒に駅前のお菓子屋さん行かない?動物の形の飴細工が新発売だってよ?」
「美子、甘いもの好きだね。まあ付き合うけど」
「いいじゃない」
「いいよ、行こう」
私はその朝も、たかやす君のことを思い出して、ふと悲しくなった瞬間があった。でも、学校に来て美子と話をしていたら、少し落ち着いた気もする。
「それでさ凛ちゃん、その駅前のお店でね…」
「ちょっと、美子」
「え、何?」
私は挑戦的な微笑みを想像し、自分の顔でそれを作って机に肘をつく。すると、美子はおどおどとし始めた。だから私は、強ばっていた顔を和らげて、もう一度美子に笑う。
「ちゃん付け、もういいって」
美子はなぜか赤くなって、いろいろと言い訳しながらも、これからは「凛」と呼ぶことを了解してくれた。
私は、もしかしたらまた屋上に行くかもしれない。それか、行かないかもしれない。
でも、もし行く時には、あの頃の正体を持たない透明な気持ちは、消えてしまっていると思う。
そこには、あの時とは違う、淡く心地よい色があるような気がする。
わたしと美子が帰る通学路には、あれから一年が巡った春の桜が咲きこぼれて、その姿を誇っている。雲一つない晴天に白い花びらが飛ばされて舞い散る様子は、どこか切なく感じるほどで、その分とても綺麗だった。
私は分かっている。何一つ解決はされていないこと。また泣きもするだろうこと。
“胸に青い絆創膏”
ふっと私の頭にそんな言葉が思い浮かんだ。
“私が知ってるのは、歩くことだけ”
「凛ー!置いてくよー!」
遠くで美子が呼んでいる。私は行かないと。
「待って、今行く!」
End.