青い絆創膏(後編)
それから私の体調は日に日に良くなって、ついにある日、クラスに戻った。
教室が一度ざわついたけど、みんなすぐに興味もなかったように、私から目を逸らす。それでも私は、“この中にもし、たかやす君がいてくれたなら”と考えていることで、精一杯だった。
私が席に就く前から視線を感じていたけど、椅子に座った途端、後ろから木野美子がせっつくように話しかけてきた。
「凛ちゃん、おはよう。もう出てきていいの?体調大丈夫?」
「お、おはよう。久しぶり…。なんとか大丈夫…心配かけて、ごめん…」
「本当にね。心配したよ。何かクラスであったら言ってね」
「えっ…ありがとう…」
私は、呆気に取られていた。自分がもう、木野美子の言葉を、“どうせ社交辞令だろう”とは思っていなかったことに。
何があったのかは聞かないまでも、「ずっと心配していたんだ」という美子の言葉を、私は信じられるようになっていた。
それは私が普通に登校し始めて少ししたある日、家に帰ってきたときだ。
私が帰宅してもお母さんが寝室から出てこなかったので、私は不思議に思って寝室の磨りガラスに近づいた。すると、その扉の向こうから、お母さんが誰かと電話をしているような声が聴こえてきた。
お母さんが電話の相手に喋りかける口調はどこか切羽詰まって、必死のように聴こえた。私はその様子で心配になったので、思わず立ち聞きしてしまった。
「ええ、ええ…お義母さん、あの人は今どうしていますか?お酒のことは…」
相手の言葉は、ずいぶんと長いようだった。そのあとお母さんは一度大きくため息を吐き、嬉しそうな声を上げる、
「ごめんなさい、私、あの人に何もしてあげられなかったのに、お義母さんにこんな電話をしまして…はい、はい、ありがとうございます…良かった…本当に…」
それはどうやら、父方のおばあちゃんとの電話だったみたいだ。
そしてお母さんが電話を切って寝室から出てきた時、私は立ち聞きしていたことがわかってしまったので、どうしたらいいかわからず、お母さんを見たまま、突っ立っていた。でも、お母さんはとても嬉しそうだった。
「おかえりなさい、凛」
「お母さん…電話してたの、おばあちゃん?お父さんの方の…」
お母さんはそれに嬉しそうに頷くと、「ええ、そうよ。これであなたにもやっと話せるわ」と、安心したように微笑んだ。
「紅茶を入れるわね。長い話になるから、少し多めにしましょう」
そう言ってお母さんは、久しぶりに気持ち良さそうに微笑んでいた。