僕は先端恐怖症(おしゃべりさんのひとり言 その48)
僕は先端恐怖症
尖った先端っていうのは危険じゃないですか。
これは当たり前ですよね。
じゃ、その先端が怖いって感覚も当たり前だと思うんですけど、隣の人にお箸をこっちに向けられたらどうします?
平気でその距離のまま居られる?
少し後ろに身を引く?
僕は首をブルブルって振りたくなります。
この反応はおかしいかな?
でもあんな経験があったら、仕方ないでしょ。
子供のころ、道に落ちてた金属の塊を拾った。
それには2本、釘のように尖った棒が付いていたんだ。
恐らく壁に打ち付けて固定する何かなんだろうけど、子供心にかっこいいと思って持って帰った。
居間に仰向けに寝転んで、それを手に持ち、飛行機のように顔の上で円を描くように格好よく飛ばしてたら・・・
ポロ!
僕の目の上に落ちてきた。
鋭利な先端が2本見えた。それが一瞬で僕の目に。
でも直前に、重みで回転して、金属の塊の方が顔面にゴツン!
まあ、助かってよかったけど、先の尖ったものには気を付けようと思ったね。
それからまた暫くして、弟と応接のソファでトランポリンのように飛び跳ねて遊んでいた。
その時弟は、棒の付いたキャンディを咥えていた。
「ジャンポン!、ジャンポン!!、ジャンポン!!!」
こんな掛け声で楽しく遊んでたんだけど、空気は一変する。
弟が僕のジャンプとシンクロしだす。
僕の方が体重が重い。
段々と弟は、ジャンプの勢いに付いて来れなくなる。
結果、僕の方に倒れ込んだ。
この時もはっきり見えた。
弟の口に咥えた棒が、僕の左目に向かって来るのが。
でも、この時は回避できなかった。
その棒が僕の目に入って引っ掻いた。痛かった。
その様子を母さんが見ていた。
すぐに眼医者に連れて行かれた。
白目の部分に深い傷。
医師のカルテに眼球の絵が描いてあって、その黒目の横に、赤いボールペンでチェックを入れるのを見ていた記憶も鮮明。
大事には至らなかったけど、今も傷跡が残ってる。
多分あれ以来、先端恐怖症になってしまったんだろう。
この症状を持っていると、普段どんなふうに影響があるかと言うと、
お箸の先端の話はさっきしたけど、焼き鳥を食べた後の竹串を、竹筒に差しておくのを見ても怖い。
ペン先も同様だから、ペン立てに逆さに入れてあるボールペンは、すぐに下向けに直す。
趣味のイラスト用の色鉛筆は、先端保護のために上向けに立てるもんだけど、僕はそれをやってない。
ハサミなんかやめてくれ。鳥のくちばしとか、イセエビのヒゲとか。
普段何とも思ってないテーブルでも、床に落としたものを拾おうと、姿勢を下げたら、目線がテーブルの高さになって、その角っこでさえ怖い。
人に指差された時も、ギクッとする。
そんな時は、その先端を違う方向に向け直したり、自分の目の位置を変えると脱出できるんだ。
でも、この恐怖症を根本的に解消する方法が無いか、今更ながら考えてみた。
その①:自己暗示
先端が怖いと感じるのは、先端を見た時だけ。頭の中で想像してるだけなら怖くない。
なら、見てる時も怖くないんだと自分に言い聞かせれば、怖くなくなるんじゃないかな?
やってみた。
ボールペンの先を想像して、(怖くない、怖くない、怖く・・・)と瞑想にふける。
そしてペンの先端を実際に見る。・・・ダメ。
何度か日を変えてやってみても、・・・やっぱりダメ。
その②:逆ショック療法
じゃあ敢えて、先端を見続ける。(絶対安全な距離を保ちながら、その恐怖に耐える)
その内に慣れるんじゃないかな?
やってみた。
仕事中に思い付いて、ボールペンでやってみたんだけど、20センチくらいまでは耐えられた。
ん? 耐えられたってことは、まだ無理してる? つまり怖いのには変わりない。
怖くないって言い聞かせてる間、ずっと目を背けたくて、それを我慢してるだけの時間だった。
声を上げたくなるような怖さはないけど、どれだけ長く我慢出来るかの挑戦に過ぎない。
諦めた瞬間の解放感は気持ちいいくらいだけど。
その③:保護具の着用
危険な作業をする時って、基本的には安全対策をしてから作業開始するもんだ。
じゃ、目にゴーグルを着けてみたらどうかな?
やってみた。
結果、全然怖くない。活路が見えた気がするぞ。
守られてる感が強いし、ポリカーボネートのレンズの強度を知ってるから、まったく怖くない。
ペン先でそのレンズを突いても平気。
以上から、やっぱり頭で安全だと理解していないと、恐怖を克服できないんだ。
でも普段からゴーグルなんか着けてられないから、老眼鏡(もう必需品で・笑)で試したらどうかなって。
普段、仕事で使用してる老眼鏡は、スリムなデザインのやつで、小さめのレンズ。
これだと、守られてる感がない。
裸眼の時より、はるかに安心だけど、ゴーグルほどじゃなかった。
家にある、昔100均で買った大きめのレンズだとどうかな?
もう使ってない眼鏡なので、これを試すのを長い間忘れてたけど、昨日思い出してかけてみた。
お!? 意外に怖くない。これ行けるじゃない!
お箸の先OK! ペン先OK! ハサミの先OK! テーブルの角OK!
明日、眼鏡屋に行きます。
つづく
作品名:僕は先端恐怖症(おしゃべりさんのひとり言 その48) 作家名:亨利(ヘンリー)