少年と燃える青年
プロローグ
リサは、一人の金髪の少年をしょって、とても暗い道を歩いていた。
しばらく進んでいくと、広い洞窟に入った。その中は当然、寒々しい真っ暗闇である。しかし、リサはごつごつした地面につまずくことも、壁にぶつかることもなく、すたすたと歩いている。
「お姉さん…、よくこんな真っ暗な道が歩けるよね」
少年はつぶやいたが、リサは何も答えなかった。
2人は暗くて長い洞窟を抜けると、乾いた小道を通り、背の高い木々が鬱蒼と茂る森へ入っていった。
(こんな所を通るのかよ…)
少年は心の中でつぶやいた。リサは相変わらず転倒もせず衝突もせず、黙々と、かつ、すたすた歩いている。森の中だというのに、獣1匹現れない。歩きながら、彼女は歌い始めた。曲調はメランコリックだが、どこか甘く切ない。少年は両手両足に痛みを感じていたが、彼女の歌声のおかげで、少しは痛みを忘れられた。
いつの間にか、やや強い雨が降っていた。
「ま…まだかな…目的地…」
少年はかなり疲れており、声にも気力が感じられない。リサは、静かに言った。
「もうすぐ着くわ。かわいい子」
彼女からは、ほのかにゼラニウムの香りが漂ってくる。まるで、昔の記憶を思い出させてくれるような…。
やがて、2人は荒涼とした川岸にたどり着いた。水辺には、暗い感じの船頭を1人乗せた、1隻の木のボートが浮かんでいた。
「さあ、着いたわ」
リサは少年を背中から下ろし、懐から3本のゼラニウムを出すと、船頭に渡した。そして、その人から何やら白い布を受け取り、それを広げた。それは、裾の広がったチュニックのような洋服だった。彼女は、少年に言った。
「両腕を挙げなさい」
彼がそのとおりにすると、リサはその白い服を彼の頭からすっぽりと着せた。
そして少年は、リサに促されてボートに乗った。すると船頭は櫂を動かし、ボートが岸から離れた。彼女は懐から白いハンカチを出し、それを持ったまま手を振りながら、小声で言った。
「また1人……ボン・ヴォヤージュ」