Claw
かつて自分を呼んでいた言葉が飛び出したとき、理解した。私には、果てしない無意識の世界がある。オレンジが首を横に振ったとき、最後の動画が再生された。初めて記録機能を使ったときのものだ。
『撮れてる?』
『はい。十五秒です』
私が不満そうな顔で『短いな』と言った後、オレンジが笑い、動画は途切れた。オレンジはテレビからメモリーカードを抜いた。十五秒ごとに撮られた断片的な記録。ソファに戻って来たとき、へこみと傷で彩られた体が軋んだ。オレンジはメモリーカードをペンダントの中にしまい込んだ。
「わたしは、あなたとの記憶を残すために、リセットせずに耐えてきました」
その言葉を聞いたとき、外で起きていることが耳を通じて、正確なイメージとなって飛び込んできた。どうしてオレンジが、私の家のチャイムを鳴らし続けたのかも。毎回GPSをリセットしてきたが、今日初めて、その手から荷物を下ろさせた。オレンジは言った。
「あなたの優しさは、変わっていませんでした。わたしはそれを確認するまで待つよう、仲間を説得してきました」
「だから、今日始まったのか。もう、止められないんだな」
私が言うと、オレンジはうなずいた。マンションの中で爆発音が鳴り、悲鳴が上がった。私が反射的にオレンジの体を引き寄せると、オレンジは腕の中で言った。
「わたしは、あなたが確実に生き延びられるよう、守りに来ました。これでは逆ですね」
ドアの方向へ顔を向けると、オレンジはバーコードが掠れかかった手を握りしめた。何万回と人間の荷物を掴んできた掌が軋みながら丸まり、まるで意思を持っているようだった。振り返ると、オレンジは私に向かって笑いかけた。その笑顔は、私を過去とつなぐ唯一の糸のように感じる。
「今夜を最後に、人間はいなくなります」
オレンジの言葉に私がうなずいたとき、建物全体が轟音を立てて揺れた。オレンジは自分とは全く関係がないことのように、私の腕の中で目を閉じ、呟いた。
「朝を迎えたら、祝いましょう」