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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Claw

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 五つのカートリッジ型浄水材を、上から見えている順に容器から取り出し、机の上に右から並べる。それを、カートリッジ型浄水材が空になるまで繰り返す。並んだカートリッジ型浄水材の損耗度を確認し、七十以上のものを廃棄用の箱へ入れる。それを未確認の物がなくなるまで繰り返し、完了したら、新品をひとつ箱から取り出して、机に並んでいる空きスペースがなくなるまで入れ替えを繰り返す。新品の箱が空になり、空きスペースがひとつ以上存在する場合は、ライン停止(部材オーダー)のボタンを押下し、作業を中断する。
 以上の作業を、蓄電池の残量が三十パーセントを下回るもしくは、ライン内に製品がなくなるまで、繰り返す。
「手順の復唱」
 スーパーバイザの音声を認識すると、各『作業員』に内蔵された点検手順の読み上げ機能が起動し、スーパーバイザにはっきり聞こえるよう発声される。工場内では、単純なロジックが組み合わされた点検作業のラインが二十四時間、AIの制御によって行われている。物を修理するという概念が完全になくなったのは、二〇四一年だった。全ての製品には寿命が設定され、製造から廃棄までの間はメンテナンスによる消耗品交換だけが行われる。
 水が普通の存在でなくなったのは、二〇三二年だった。今でも存在はしているが、しかるべき手順で浄水を行わないと、使用はできない。
 デジタル掲示板の八桁の数値は、二〇五〇.〇四.〇二。年月日を表わす。スーパーバイザが『読み上げ』を認識して頭上のランプが緑色に変わり、私の勤務は終わった。
 社会に属するロボットには、三種類ある。特定の機能のみを与えられ、作業時のみ電源を投入される『作業専用型』。特化された能力を持ち、作業専用ロボットをマネジメントする『運用管理型』。そして、能力に制約がなく、社会生活に参画し、人間のために消費活動を行うことを期待されている『社会適応型』。自身が属する国家の持つ文化に順応するよう、初期設定されている。平均的な男性型の骨格を持つ私の手の甲には、『社会適応型』のバーコードと、暗号化された製造年月日が刻まれている。自身の状態を表わす情報は、常にアクセス可能な情報と、そうでないものに分別され、それが人間の意識と無意識に近い役割を果たす。
 消費活動は、メタ認知から生まれる。理想として設定された状態と、現在の自身の状態との差分は蓄積され、解決法として消費が最優先に設定されている。私は、通勤に使う新しい自転車が欲しい。現在使っている自転車はフレームが無地で飾り気がないが、新型はメーカー名のロゴが入っている。『社会適応型』の目的は、存在して、人間が考え出したものを欲しがり、消費すること。無地の自転車で通勤路を走っていると、様々な物とすれ違う。人間と社会適応型ロボットの区別は、不可能だ。属する国家によって異なるが、ここでは、差別を生まないという目的のため、人間も含めて手の甲を隠すために手袋をしていることが多い。『社会適応型』が生まれた黎明期には、ロボットの方が生活は楽であるとされたぐらいだった。それに憧れて手の甲にバーコードの入れ墨を入れる人間が続出し、法律で禁じられた。五年前に記憶を消去する技術が実用化されたときと、昨年、警察用の制御プログラムが流出したときは大騒ぎになったが、おおむねは平和だ。
 私と同じ『社会適応型』の中に、人間の世話を行う『家政婦型』のロボットがいる。その響きは差別的だとして、現在は『生活支援型』と呼ばれている。細身の女性の形をしているのは一貫して変わらない。オーナーによって装飾されていたり、強化外皮のあちこちにへこみがあったり、どの家に属するかによって、その待遇は様々だ。
 ロボット専用の自宅は、キッチンやトイレが存在しない以外は、人間が住むものと同じ。私が住んでいるマンションは人間とロボットの区別がなく、機能はしていないものの、人間にしか用途のない設備は、ひと通り整っている。最も重要なのは、テレビだ。ロボットが情報を得る手段は、そこから流される映像に限られている。ロボット向けのチャンネルは、かつてコマーシャルと呼ばれたものが、三十秒置きに切り替わり、それが二十四時間放映されるものと、大昔の番組の再放送を二十四時間放映するものが主だ。
 午後六時、チャイムが鳴る。ここに越してから一年が経つが、決まったサイクルで必ずここへ訪れる『生活支援型』のロボットがいて、本来の家に帰れるよう、GPSをリセットする必要がある。チャイムが鳴る日々が続いたとき、それを解決しようと考えた私は、『生活支援型』のロボットについて勉強した。そして、外から操作できるGPS機能と停止機能があり、後頭部の真下にそのスイッチがあることを知った。『生活支援型』は、ユーザーに都合のいいように設計されている。オーナーが覚えておいてほしい情報を記録させるために、メモリーカードを差し込むためのスロットすらある。契約期間が過ぎれば、工場で記録がリセットされて出荷状態に戻った後、機械としての寿命を迎えるまで、様々な家庭に向けて送り出される。
 ドアを開けると、いつもと同じ『生活支援型』のロボットが立っていた。半袖シャツにジーンズ姿で、両手には常に、人間が抱えきれない量のカゴがぶら下がっている。手の甲には『2044』と数字が刻まれていて、製造されたのは六年前であることが分かる。ストレートのウィッグは暗いオレンジ色で、体のあちこちにへこみがある。右足首はメンテナンスで取り換えられたのか、新品になっていた。最近は、このように虐待されたロボットを見る機会が増えた。『生活支援型』のロボットには、人間が不快に感じることを理解できるよう、痛覚がある。痛みを避けるために逃げ回るから、余計に虐待される悪循環になっている。もちろん、人間より強いからといって、壊れないわけではない。ただ、故障と定義されないだけだ。全ての個体が回収されるわけではなく、壊されて遺棄されるものもあり、それを再利用する人間もいる。私はこの個体を『オレンジ』と呼んでいるが、彼女がその中の一体である可能性は高い。
 私はウィッグをかき分けて、後頭部のGPSスイッチを探した。本当のオーナーは隣の建物に住んでいる。両腕の関節が軋み音を鳴らしていることに気づいた私は、GPSスイッチの隣にある停止ボタンを押した。カゴが床に静かに置かれ、立ち上がった状態でオレンジは停止した。再起動すると、眼球の奥にあるカメラが焦点を合わせるように絞られ、カゴから解放されて自由になった右手が動いた。オレンジはジーンズのポケットからメモリーカードを取り出すと、私に差し出した。受け取らずにいると、オレンジはそれを地面に落として代わりにカゴを拾い上げ、本来の目的地であるように部屋に上がろうとした。私はGPSをリセットして、本来の家に送り出した。私は、署名のないメモリーカードを拾い上げると、部屋に保管した。テレビは、私が欲しがっているロゴ付きの自転車を映し出していた。メモリーカードをテレビに差し込んで数秒が経ったとき、外で花火のような音が鳴った。テレビが外部出力に切り替わり、ディスプレイにメモリーカードの内部が映し出された。
作品名:Claw 作家名:オオサカタロウ