百代目閻魔は女装する美少女?【第九章】
それはこんなシーンだった。
真美は現世では何不自由なく育っていた。自分の家は優しい両親に囲まれたいい家庭だ、富豪ではないけれど、それなりに裕福。自分では箱入り娘なのかなと思っていた。学校では、いつも同級生より2ランク位高いブランドの服を着ていたし、食事もしばしば高級レストランで豪華なディナー。他の子からは『真美ちゃんちはお金持ちでうらやましいね。』、そう言われていた。表面上は『そんな大したことないわ。』と返事していたが、内心は優越感いっぱいで嬉しかった。しかし、12歳の12月。ふかふかの自分のベッドで寝ていた真美。深夜にけたたましい警戒音で目を覚ます。それはどうやらパトカーらしい。近所で何か事件でも起こったのだろうか。目をこすりながらトイレに立つ真美。しかし、警察が開けたドアは自分の家の玄関。
「為善容疑者2名。詐欺容疑で逮捕状が出ている!」
入ってきたのはテレビよく見るコートを着た刑事なんかではない。丸刈りで、眼光の鋭いやくざのような人相の悪い男だった。真美の両親は詐欺師だったのだ。嘘で固められた世界。詐欺師であることを知らずに育った自分。
世の中の真実にもいろいろある。両親がいなくなって、真美を引き取りために、家にやってきた父方の叔母から聞いた言葉。
「真美ちゃん。言いにくいことなんだけど、あなたは、逮捕された兄の本当の子供じゃないの。実は捨て子だったのを兄夫婦が拾って育てたのね。今さらで申し訳ないけど、私が引き取る以上、こういうことははっきりさせとかないとね。」
思いもしなかったことを事務的に告げられた。涙が流れる前に家を出ていた。
天涯孤独。生きていくためには自分も詐欺師になるしかなかった。
ねぐらもないので、野宿するしかなかった。寒い。このままで凍え死んでしまう。それでもいい。どうせ悲しむ人もいない。自分の命の軽さ。こうなるまでの夢を神様は見せてくれたんだ。それに感謝しよう。さあ眠ろう。目が覚めたら天国にいるのが最後のアタシの願い。さようなら現世。
「おい、起きろよ。こんなところじゃカゼ引くぞ。」
天使に出会った。天国にこれたんだ。神様ありがとう。最後の願いを聞いてくれて。
「どっこいしょっと。」
天使がアタシを抱えている。あれっ?死んだら体重とか関係なくなるんじゃないの?
「お前、からだは小さいのに、持ち上げるとけっこうくるなあ。その赤いリボンが重たいのかなあ?冗談だよ。へへへ。オレってすぐに嘘ついてしまうからなあ。」
天使だった。でも現世の。
九死の中で出会った隼人。中学生位の年齢だがすでに詐欺師だった。両親が詐欺師だったことにショックを受けたのに、出会った相手が詐欺師とは!自分の運命を呪いつつも、これが人生と割り切った。日夜嘘をついては生活に必要なものを手に入れていた。ふたりはいつしか愛を誓った仲となった。しかし、仕事柄か、それも嘘ではないかと疑心暗鬼になる真美。
ある時、美少年が他の女子とつきあっている場面を見てしまった。それもすごく大接近している状態。少し距離があったので、よく見えなかったが、キスをしているようだった。真美はショックを受けたというより、やはりそうかと思っただけだった。アタシの人生ってそんなものだと人生二度目の絶望だった。
真美は隼人を殺して、自分も自殺した。ふたりともジバクとなった。これでずっと一緒にいる。それが真美の望みだった。でもそれは表面。本当は『現世』で愛し合いたかったのだ。自分に嘘をついて、隼人を無理やりジバクにして、自分だけのものにしていた。その結果、隼人は自分のものになった。だが、眠ったままのジバクとなってしまった。やったことが正しいことではないことを自分ではわかっている。でもどうしようもない。そのストレスがジバクとしての悪戯に発展していた。
なお、隼人が出会った女子についてであるが、『都が道を訊いていただけだったが、都がドジって、転んで抱き合ってしまっただけだった。』のだが、一瞬のことなので、当事者は誰も顔を記憶していなかった。それは悲劇か喜劇か?
「オレは他の女の子とつきあったことなんてないぜ。オレの好きなのは、真美だけだ。」
隼人は真顔でそう言い放った。告白にしては直球だが、真美のような猜疑心の強い女の子にはこれが効果抜群だ。
「ほ、ホント?信じられないわ。アタシの回りって、嘘ばかりだから。」
真美は隼人の言うことを信じながらも、なお、少しばかりの疑念を持っていた。
「仕方ないな。じゃあ、こうだ。」
隼人はいきなり真美を抱きしめて、その薄い唇を奪った。
「「「「ええええ!!!!!」」」」
すでに寝かされている絵里華以外は全員があまりの衝撃に絶句した。
何分間かふたりの口は合わされたままだった。やがてひとりひとりのジバクとなった。
「どうだ。これでオレの気持ちがわかったかな?」
「うん。そうだったんだね。アタシの勘違いで、隼人をジバクにしてしまってごめんね。」
「いいさ。真美に殺されなくても、そのうち逮捕か、どうかなっていただろう。まともなことをしていたわけではないからな。潮時だったと思っているよ。」
「そう言ってもらえると、救われるわ。・・・お迎えが来たみたいね。輪を斬ってね。アタシが成仏するのは、隼人のキスだったのよ。最後にこんな気持ちになれてよかった。あのまま現世にいても仕方なかった。ジバクになったのは間違いじゃなかったわ。みんなありがとう。」
美緒は薙刀を軽く振って真美の白い輪を切り離した。真美の姿がスーッと消えた。
「終わったな。絵里華はどうだ?」
「絵里華たんはまだ気を失っているみたいだけど、顔色もよくなってるから大丈夫だよ。」
「由梨もいるな。じゃあ行くぞ、都。」
オレは美緒に気を使って、距離を置いていたが、その場から動かない。
「美緒、ちょっと。都が眠っているわよ!」
由梨が必死にオレを揺すっている。しかし、オレは酔いつぶれたみたく、まったく動く気配がない。
「ま、まさか。」
美緒の顔から血の気が引いていく。
「都たんに隼人たんがとりついたみたいだね。」
万步が終末宣言をした。
「全員、位置について。よ~い。」
『ピー!』『バシャーン!』
「おお、いいぞ。みんないいスタートだ。その勢いで記録更新だ。」
真っ赤なジャージと首にホイッスルをぶら下げた男性体育教師。体操服の上からでも胸板の厚さが十分見て取れる。白い帽子に太陽光がわずかに反射している。
夏空には少し遠い、薄いブルー。まだ初夏で水に入るにはまだ肌寒い中、学校では水泳の授業が始まっている。25メートルプールの回りにはスクール水着の男女が体育座りをしては隣の生徒と小さな声で談笑している。授業という緊張感には欠けているようにしか見えない。一定の間隔を置きながら、生徒たちはプールに飛び込んでいく。
「ぶくぶく!た、助けて~!」「ぐぁ!ぶはぁ!く、苦しい~!」
泳いでいた男女の生徒が水面から手をあげている。明らかに溺れかけている。
「待ってろ~!これに掴まれ~っ!」
真美は現世では何不自由なく育っていた。自分の家は優しい両親に囲まれたいい家庭だ、富豪ではないけれど、それなりに裕福。自分では箱入り娘なのかなと思っていた。学校では、いつも同級生より2ランク位高いブランドの服を着ていたし、食事もしばしば高級レストランで豪華なディナー。他の子からは『真美ちゃんちはお金持ちでうらやましいね。』、そう言われていた。表面上は『そんな大したことないわ。』と返事していたが、内心は優越感いっぱいで嬉しかった。しかし、12歳の12月。ふかふかの自分のベッドで寝ていた真美。深夜にけたたましい警戒音で目を覚ます。それはどうやらパトカーらしい。近所で何か事件でも起こったのだろうか。目をこすりながらトイレに立つ真美。しかし、警察が開けたドアは自分の家の玄関。
「為善容疑者2名。詐欺容疑で逮捕状が出ている!」
入ってきたのはテレビよく見るコートを着た刑事なんかではない。丸刈りで、眼光の鋭いやくざのような人相の悪い男だった。真美の両親は詐欺師だったのだ。嘘で固められた世界。詐欺師であることを知らずに育った自分。
世の中の真実にもいろいろある。両親がいなくなって、真美を引き取りために、家にやってきた父方の叔母から聞いた言葉。
「真美ちゃん。言いにくいことなんだけど、あなたは、逮捕された兄の本当の子供じゃないの。実は捨て子だったのを兄夫婦が拾って育てたのね。今さらで申し訳ないけど、私が引き取る以上、こういうことははっきりさせとかないとね。」
思いもしなかったことを事務的に告げられた。涙が流れる前に家を出ていた。
天涯孤独。生きていくためには自分も詐欺師になるしかなかった。
ねぐらもないので、野宿するしかなかった。寒い。このままで凍え死んでしまう。それでもいい。どうせ悲しむ人もいない。自分の命の軽さ。こうなるまでの夢を神様は見せてくれたんだ。それに感謝しよう。さあ眠ろう。目が覚めたら天国にいるのが最後のアタシの願い。さようなら現世。
「おい、起きろよ。こんなところじゃカゼ引くぞ。」
天使に出会った。天国にこれたんだ。神様ありがとう。最後の願いを聞いてくれて。
「どっこいしょっと。」
天使がアタシを抱えている。あれっ?死んだら体重とか関係なくなるんじゃないの?
「お前、からだは小さいのに、持ち上げるとけっこうくるなあ。その赤いリボンが重たいのかなあ?冗談だよ。へへへ。オレってすぐに嘘ついてしまうからなあ。」
天使だった。でも現世の。
九死の中で出会った隼人。中学生位の年齢だがすでに詐欺師だった。両親が詐欺師だったことにショックを受けたのに、出会った相手が詐欺師とは!自分の運命を呪いつつも、これが人生と割り切った。日夜嘘をついては生活に必要なものを手に入れていた。ふたりはいつしか愛を誓った仲となった。しかし、仕事柄か、それも嘘ではないかと疑心暗鬼になる真美。
ある時、美少年が他の女子とつきあっている場面を見てしまった。それもすごく大接近している状態。少し距離があったので、よく見えなかったが、キスをしているようだった。真美はショックを受けたというより、やはりそうかと思っただけだった。アタシの人生ってそんなものだと人生二度目の絶望だった。
真美は隼人を殺して、自分も自殺した。ふたりともジバクとなった。これでずっと一緒にいる。それが真美の望みだった。でもそれは表面。本当は『現世』で愛し合いたかったのだ。自分に嘘をついて、隼人を無理やりジバクにして、自分だけのものにしていた。その結果、隼人は自分のものになった。だが、眠ったままのジバクとなってしまった。やったことが正しいことではないことを自分ではわかっている。でもどうしようもない。そのストレスがジバクとしての悪戯に発展していた。
なお、隼人が出会った女子についてであるが、『都が道を訊いていただけだったが、都がドジって、転んで抱き合ってしまっただけだった。』のだが、一瞬のことなので、当事者は誰も顔を記憶していなかった。それは悲劇か喜劇か?
「オレは他の女の子とつきあったことなんてないぜ。オレの好きなのは、真美だけだ。」
隼人は真顔でそう言い放った。告白にしては直球だが、真美のような猜疑心の強い女の子にはこれが効果抜群だ。
「ほ、ホント?信じられないわ。アタシの回りって、嘘ばかりだから。」
真美は隼人の言うことを信じながらも、なお、少しばかりの疑念を持っていた。
「仕方ないな。じゃあ、こうだ。」
隼人はいきなり真美を抱きしめて、その薄い唇を奪った。
「「「「ええええ!!!!!」」」」
すでに寝かされている絵里華以外は全員があまりの衝撃に絶句した。
何分間かふたりの口は合わされたままだった。やがてひとりひとりのジバクとなった。
「どうだ。これでオレの気持ちがわかったかな?」
「うん。そうだったんだね。アタシの勘違いで、隼人をジバクにしてしまってごめんね。」
「いいさ。真美に殺されなくても、そのうち逮捕か、どうかなっていただろう。まともなことをしていたわけではないからな。潮時だったと思っているよ。」
「そう言ってもらえると、救われるわ。・・・お迎えが来たみたいね。輪を斬ってね。アタシが成仏するのは、隼人のキスだったのよ。最後にこんな気持ちになれてよかった。あのまま現世にいても仕方なかった。ジバクになったのは間違いじゃなかったわ。みんなありがとう。」
美緒は薙刀を軽く振って真美の白い輪を切り離した。真美の姿がスーッと消えた。
「終わったな。絵里華はどうだ?」
「絵里華たんはまだ気を失っているみたいだけど、顔色もよくなってるから大丈夫だよ。」
「由梨もいるな。じゃあ行くぞ、都。」
オレは美緒に気を使って、距離を置いていたが、その場から動かない。
「美緒、ちょっと。都が眠っているわよ!」
由梨が必死にオレを揺すっている。しかし、オレは酔いつぶれたみたく、まったく動く気配がない。
「ま、まさか。」
美緒の顔から血の気が引いていく。
「都たんに隼人たんがとりついたみたいだね。」
万步が終末宣言をした。
「全員、位置について。よ~い。」
『ピー!』『バシャーン!』
「おお、いいぞ。みんないいスタートだ。その勢いで記録更新だ。」
真っ赤なジャージと首にホイッスルをぶら下げた男性体育教師。体操服の上からでも胸板の厚さが十分見て取れる。白い帽子に太陽光がわずかに反射している。
夏空には少し遠い、薄いブルー。まだ初夏で水に入るにはまだ肌寒い中、学校では水泳の授業が始まっている。25メートルプールの回りにはスクール水着の男女が体育座りをしては隣の生徒と小さな声で談笑している。授業という緊張感には欠けているようにしか見えない。一定の間隔を置きながら、生徒たちはプールに飛び込んでいく。
「ぶくぶく!た、助けて~!」「ぐぁ!ぶはぁ!く、苦しい~!」
泳いでいた男女の生徒が水面から手をあげている。明らかに溺れかけている。
「待ってろ~!これに掴まれ~っ!」
作品名:百代目閻魔は女装する美少女?【第九章】 作家名:木mori