第三話 くらしの中で
長く生きていると その一
コロナという疫病が始まる前に亡くなった友人や知己が何人かいる。
家族でいうと実母と夫もその数年前に死んだ。
こういう閉鎖した世の中でぽつぽつと知り合いが居なくなって、その上自分もあちこち思わぬ身体の支障が生じ、それでも健気に頑張って生きていくのは寂しくも辛いことではある。
知らないままであの世に行った人達はむしろ幸せだったかもしれない。それでも生きている者は皆なんとか死なないようにと願っている。私もその中の一人かもしれない。
今日からわが市内では高齢者のコロナワクチン接種の受付が始まる。
この数日なんとなく不安で緊張しているが、長年私の体調を御存じの主治医に聞いた所、大丈夫大丈夫と仰ったので受けることにした。
もし大丈夫ではなかったとしても先生に責任をとってもらうわけではないけれど、そう言われれば少しは安心する。
高齢者から摂取する政策なのだからきついものではないだろうと思ってはいるが、悪く取れば初めてのワクチンなので結果はわからないのだから高齢者は試す対象に適していると考えられているのかとも邪推したりする。
これまで病気以外では色々な危機に遭遇しながら生きてきたが、自分の体に加えられる危機感は初めてのことだ。不定愁訴は色々あったが致命的な大病をしたことが無い。だからこの度のワクチンは怖いと思いながら打つ。
作品名:第三話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子