第三話 くらしの中で
田舎のお爺さんとお婆さん その一
田舎といっても、ど田舎ではなく結構趣のある城下町の範囲である。
私の家族が市内の山の麓の生家から町なかの住宅街へ越して来たのはついこの間のような気がするが、気がつけば三十年あまり経っている。
だが当時のわが家の状況と現在の状況は全く変わっていて、転居当初のあの賑やかな暮らしは夢ではなかったのかとさえ思われる。第一ここに住んでいた住人の実母も主である私の夫も今はあの世に行ってしまって会いたくても会えないのだ。
まだ自立していなかった二人の娘は貫禄たっぷりの女に生長し、私をはるかに上回る馬力がある。
当時家族は五人だったが、今は直系は私を含めて四人。
5マイナス2プラス1イクオール4というわけである。計算は間違ってはいない、次女に子供ができたので孫がプラス1である。
とはいえ、四人は2、1、1で暮らしているからばらばらだ。
私がどうにか実家といえる家を守って生きているから、2と1たちは多分心の拠り所としている。従って私は80になっても90になっても誰かが帰ってくるまで生きていなければならないのだ。
作品名:第三話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子