第三話 くらしの中で
その六 **アラフィフのドネイション
話は変わって、先日近くの老女と話す機会があった。以前から自分は人に甘えたい、相手は一人では満足しない、沢山の人に優しくしてもらいたいと言っていた。
そういう者に限って、自分は子供の時から大事にされて育ったとか、旦那さんに甘えて我儘一杯だったとか、現在の自分の寂しい気持ちの自己弁護をする。
聞いている自分もその話についつられて、その人を幸せな人だったんだなあと思ってしまう。でも我に返って思うに、その心がその人の精神を蝕んでいることに気が付くのだ。
かつて私の家にもそういう人間がいた。私の叔母で、母の実姉に当たる人だ。叔母の連れ合いが亡くなってからは母が面倒をみていた。叔母の仕事は私の次女の守りをすることだった。
60歳ごろから次第に人を捜し求める奇妙な言動が始まり、その状態は70歳、80歳、90歳と年を取るにつれて加速した。
叔母は誰にも相手をしてもらえなくなり町を歩き回り、我が家の娘が思春期になると学校まで付きまとうようになった。
人に甘えて執着する者のなれの果てを実際に見て来た私は甘える心の怖さを知っている。
或る年代になったときに見つけた本の中で「孤独に強い人が老後強く生きられる」という言葉。
これから周りの人たちは次々と老いて行き、それぞれがこれまでの生き方の分かれ道を見せてくれるだろう。
完
作品名:第三話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子