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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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220.横顔



 人の横顔を見るのが好きだ。

 異性、同性を問わず、人の横顔を見るのは面白いし、興味深い。特に何かに熱中しているときの横顔、これがたまらない。真剣になっている横顔を見て、こちらが真剣になってしまうほどだ。さらに深い話をすれば、ディスプレイのような淡く光るものを見つめていてほしい。もちろん、暗いところでだ。暗がりの中、データなどを息を殺して見守る。その真剣な表情に当たる、ディスプレイの少量の光。ああ、これがたまらんのだ。

 先ほど、異性、同性を問わずと書いたが、やはりそれが好きな人なら、なお喜ばしいことは否定できない。きっと、その横顔に腕を絡ませて、抱きしめてしまうぐらい感激してしまうだろう。
 幸い、私にもお付き合いしている方がいる。あきれられるかもしれないが、彼に私のこの趣味を伝えて、真剣な横顔を見せてもらおう。そう思い、話をした結果、
「俺、人に見られてると、集中できないたちなんだよね」
だそうだ。いいからいいからと、とにかく説き伏せて、パソコンの前に座らせ電灯を消す。好きな映画でも見ていれば、私のことは意識から外れるだろう。そう思ったのだが。映画を3本ほど見終えても、彼はまだ私のことをチラチラと見ている。随分と落ち着かないようだ。どうやらさっき言った言葉の通り、見られていると駄目なようだ。

 困った。これでは、彼の真剣な横顔が見るという目的が達成できない。だが、見られないとなると意地でも見たくなるのが人間の性というものだ。
 私は、この目的を達成するために、いろいろな方法を試してみた。彼の横顔が見える位置に、節穴を開けた。スマホを録画状態にして、それとなく置いといた。鏡の屈折を利用して、盗み見ようとした。だが、彼は目ざとくそれらに気づいてしまう。これでは、どうしようもない。完全にお手上げだ。

 そう思った瞬間、ある方法がひらめいた。

 ある日。確実に仕事の締切りに追われているであろう彼。私はその彼の集中を妨げることなく、先日、備え付けた装置のボタンを押下する。
「ヒュン」
風を切るような音がして、その直後から彼の部屋の物音がしなくなる。私は、彼の部屋に入り込み、胴と分離した彼の首を手に取った。
 そう。彼が集中している瞬間に首をはねれば、彼の集中した横顔が手に入る。そう思った私は装置を用意した。ボタンを押せば、椅子のヘッドレストから刃が飛び出すという仕掛けを。
 私は誇らしげに、手中にある彼の首に目をやる。だが、彼の表情はやはり、集中をしていなかった。刃が首を切断する一瞬のうちに、彼は集中力を失っていたのだ。私は、あぜんとしたまま、集中を欠いた彼の血の滴る横顔をいつまでも見つめていた。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔