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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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226.長い歴史の中で



 あの言葉、今までどれほど言われてきたのだろうか。

 一説には古代エジプトの壁画に、書いてあったらしいあの言葉。そう。『最近の若い者は……』で、始まるあれである。この冒頭から分かるように、老いた人が若い世代をこき下ろすのに使う言葉だ。

 私はもうこんなことも言われないおっさんだが、いまだにこの言葉には嫌悪感がある。頭ごなしに押さえつけられる感じ、定型句としてしっかりしている上に、相手は百戦錬磨の老人。9分9厘、こちらが敗北する状況で抜かれる刀。これらが恐らく嫌悪感の理由だろう。

 だが最近この感覚は、間違いなのではないかと思うようになってきた。


 もしかしたら老人は、若者をくさすためにこの言葉を発しているのではなく、実は褒め言葉だと思っていやしないだろうか。
 そうなのだ。彼らは多分、今を享受している若者がうらやましいのだ。自分も輪に入りたいと思っているのだ。自分もまだ若いつもりでいる、でも、さすがにこれは理解できない。そういう思いでこの言葉を口にしているのだ。
 基本的にどの老人も表に出さないが、どうもそんな気がしないでもない。

 ということは裏を返せば、この言葉を老人に言わせれば、彼らに認められたということになる。つまり嫌がっていた私が、そもそも間違いだったのだ。どんどん老人に言わせて、若者は言われたことを誇りにすればよかったのだ。

 だとすれば一見、世代間のディスコミュニケーションに思えるこの言葉が、実は老人と若者をつないでいたことになる。
 こんなことにいまさら気付くとともに、もしかしたら連綿と続いているこの歴史の中で、みんなこのことを分かってやっていたんじゃないかということにも気付いて、自分の鈍さに少し泣いた。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔