火曜日の幻想譚 Ⅱ
123.限定能力
大学を留年し、仕送りを打ち切られることになった。
卒業ができるあてもなく、どこかに勤められそうな「つて」もない。八方塞がりで、もうどうしようもなくなっていた。
俺はヤケを起こし、近所の古ぼけた雀荘へとフラフラ入り込んだ。麻雀などろくに知らないのに、あり金全部をつぎ込もうという魂胆。まさに暴挙といっていい行いだった。
虚ろな目で牌を開く。どうせ、ろくでもない牌ばかりが集まってきてるんだろうと思って理牌する。その時点でつもっていた。
天和とかいう役満。その半荘は開始早々、俺の勝ちが決まったようなものだった。
その後も、俺は勝ち続けた。ここに入り浸る雀ゴロたちを全く寄せ付けず、俺はひたすら点棒をかき集め続けた。
味をしめた俺は、喜び勇んで翌日もその雀荘へと赴く。昨日のうわさを聞いた腕自慢たちが、早速襲いかかってくる。難なく蹴散らせるだろう、俺はそう思った。
しかし、結果はこてんぱんに負けた。昨日の勝ちを帳消しにする勢いで負け、危うく身ぐるみはがされるところだった。最期の半荘でなんとか勝利して、ぎりぎり破滅をまぬがれた。
もう麻雀はやめよう。地道にちゃんと働こう。そう思い直し、翌日から職探しを始めた。
だが、職を探しながらも、やはり麻雀のことが気になっていた。
数日後。ある疑問を持った俺は、もう一度だけ雀荘を訪れる。カモが来たとばかりに、この間のやつらが笑みを浮かべた。
俺は、2時間ほど待ってから卓についた。そして牌を開き、この間のように理牌する。案の定、つもっている。
(やっぱりだ……)
俺は確信した。この卓、ここに座ったときだけ、俺は強くなれるということに。初めてここに来たときは、この席に座りどおしで勝ち続けた。翌日、完膚なきまでに負けた日も、最後、この卓に座ってギリギリ勝ちをもぎ取った。俺が強くなったんじゃない。この卓が俺を強くしてくれているんだ。
その日もやはり、俺は勝ちまくった。すっかり頭に来た店長がプロの雀士を差し向けてもなんのその。全くと言っていいほど誰も寄せ付けず、俺は勝利し続けた。
翌日も、その翌日も、俺は勝ち続ける。他の卓ではからっきしだが、その卓に座った時だけ、俺の牌は後光が差したように光り輝いていた。
俺は職を探すのをやめ、この卓専門の真剣師として食っていくことにした。この雀卓がぶっ壊れたら、即座に俺も身の破滅だが、なあに、かまやしない。
どうせ一度は捨てた命だ。そのときは、この卓と心中するまでさ。