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はなもあらしも ~垂司編~

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 * * *

「……え?」
「だから、橘って女に垂司さんがちょっかいだしたんだよ」

 時刻は正午を回り、美琴が手製の弁当を持って訪ねてきたので、ともえが道真と美弦、そして美琴と共に縁側に並んで美琴の料理に舌鼓を打っていた時だった。
 話題は昨日の笠原道場での一件へと移り、そして今――美弦から衝撃の一言が発せられていた。

「垂司さんが……?」
「そ。あの人、女ってみたら見境ないんだもん。なんであんなんが真弓兄さまの実の兄なんだよ」
「美弦、言葉がすぎるわよ」

 ぷぅっと頬を膨らませながら愚痴た美弦を、すかさず美琴がたしなめた。
 道真はと見ると、無表情のまま黙々と料理を口に運んでいる。

「ともえもさ、あの人の言うことあんまり真に受けない方が良いよ。お前ってなんか何でも信じそうなところあるもんな」
「そ、そんなことっ」
「いいか? ともえ、垂司さんがお前に言うような事は当然美琴にも橘にも言ってるんだからな」

 そう言うと美弦はくすくすと意地悪そうに笑った。

「美弦っ!」
「なんだよ、本当の事じゃん」

 誰にでも同じ事を言っている――――確かに美琴にも同じように甘い言葉をかけているのを目の当たりにもした。では今朝の事は? 橘にもあんな風に――弓を握ったのだろうか?
 ともえは自分の心が深く暗い所へと落ちていくのを感じた。

「おい」

 ともえの表情が僅かに曇ったのを察知して、それまで無言だった道真がふいに口を開いた。

「あんま気にすんな」
「え? あ、別に何も気にしてないよ?」
「……ならいいけどな」

 取り繕ったように笑顔を見せたともえに、道真は低く呟くと静かに視線を外した。