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はなもあらしも ~垂司編~

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 * * *

 昼食を取り終わり、道真と待ち合わせの正門前に向かう途中の廊下で、垂司とともえはばったりと顔を合わせた。

「おや、どこかへお出かけかな?」

 そんな風にのんびりと問う垂司を前にして、ともえは緊張に張りつめていた頬を僅かばかりほころばせた。

「これから道真君と笠原道場に挨拶に行くんです」
「ああ、昨日の……代表は道真か。なるほどね」

 少しだけ遠い目をしてそう言った垂司に、ともえは思い切って尋ねてみる事にした。

「あの……垂司さんはもう弓を握られないんですか?」
「ああ、そうだよ」

 答えは随分とあっさりとしたものだった。

「そう……ですか……」

 無意識のうちに肩を落としたともえに、垂司はそっと微笑みをなげかけた。

「ほら、道真が待ってるんじゃないか? あいつを待たせると中々面倒だよ」
「ああ! そうでしたっ! すみません、行ってきます!」
「行ってらっしゃい。笠原の門下生はキツい性格の子も多いから、負けないようにしっかりね」
「はいっ」

 勢いよく返事をして、小走りで正門へと向かうともえの後ろ姿を見送りながら、垂司は小さくため息をついた。

「おや、ため息とは……別に弓を捨てる事に後悔なんて無かったはずなんだがな」

 瞳に憂いの色を宿らせると、誰よりも強い佳人は静かにその場を立ち去った。