はなもあらしも ~垂司編~
第二話 日輪と笠原 〜後編〜
垂司さんの事も気になるけど……。でも垂司さんは参加しないって昨日言ってたし……。そうともえが悩んでいると、凛とした声が道場内に響いた。
「俺が出る」
声のした方を振り向くと、そこには道真が立っていた。
「道真か……」
幸之助がむぅと呻くと、道真はともえの前まで歩を進め、正面からともえへと視線を向けた。
「笠原には決着をつけたい相手がいる。俺じゃ不満か?」
「そんな事!」
「それじゃ、決まりだな」
そう言って不敵に微笑むと、道真は幸之助の方へと向き直りスッと頭を下げた。
「うむ。ともえさんもそれでいいんだね?」
「はいっ」
「よろしい。わが道場の代表は道真とともえさんとする」
幸之助がそう発すると、門下生達から拍手が起こった。代表者二人を激励してくれているのだ。
「よし、それでは道真、ともえさん」
「はいっ」
ともえは背筋を伸ばし、幸之助をじっと見る。
「笠原道場に、二人でご挨拶に行きなさい。相手の代表者とも顔を会わせておくといいだろう」
なんと、敵である笠原道場へ挨拶に行くよう突然言われた。ともえに緊張が走る。
「分かりました。おい、着替えて飯食ったら行くぞ」
「うん。分かった」
垂司の事が心のどこか片隅でちらりと気にかかってはいたが、試合のパートナーとして道真は申し分のない相手だ。日輪道場代表と言う自分に課せられたものに、多少の不安を覚えながらも、ともえと道真は笠原道場へ向かう事となったのだった。
作品名:はなもあらしも ~垂司編~ 作家名:有馬音文