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はなもあらしも ~颯太編~

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「まさか、颯太君……君が代表とはね、驚き以外の何者でもないよ。僕はてっきり真弓さんだと思っていたのに……まあいい。君が相手ならこちらの勝利は間違いないなーーーところで、こちらの方は?」

 どこかしら冷たい雰囲気の青年は、再びジロリとともえを見る。
 うわ、ちょっとこの人…… っ!? 颯太、我慢してる!?
 隣りをそっと伺うと、颯太がこめかみに大きな血管を浮き上がらせながらプルプルと震えて、辛うじて笑っていた。

「はは、こいつは那須ともえって言うんだ。安芸の那須道場からうちに修行に来てる」
「那須……ああ、師範と昔一緒に修行をしていた方の」
「初めまして、那須ともえです! よろしくお願いします!」
「氷江雪人(ひのえゆきと)です。そうですか、まあ、日輪道場の女性は熱心ではないですからね。期待はしていませんが」

 そう言って今度はともえの姿を一通り眺めると、門の戸を広く開けた。
 ともえはため息まじりに自己紹介をして歩き出した雪人に目を丸くさせた。なるほど、颯太が苦手だというのは納得だ。
 しばらく歩いていると、ふいに颯太がともえに耳打ちをした。

「な? ムカつくだろ?」
「……う、うん。でも颯太偉いよ。ちゃんと我慢してるんだもん」
「頭の中じゃもう十回くらいぶっ飛ばしてるけどな」
「はは、は……」

 二人して雪人の後ろで渇いた笑いをこぼした。
 そして日輪家に勝るとも劣らない笠原家の庭を通り過ぎ、こちらも大きな弓道場が見えて来てともえは感心した。

「わあ、立派な道場」

 つい言葉が漏れる。

「当然でしょう? 我が笠原流は由緒正しい弓道の伝統を受け継ぐ道場なんです。どこかの緩い道場と一緒にしないで頂きたい」

 呆れたように言った雪人に、ともえがつい声を上げる。

「どこかってどこですか!? さっきからあなた、失礼じゃないですか!」
「おや、僕はどこかの緩い道場と言っただけで、日輪道場の事だなどと一言も言っていませんが?」
「むっ!」
「落ち着け。おい雪人! 笠原師範が入り口に見えてるぞ」

 雪人と顔を突き合わせて睨み合うと、颯太がともえの体を引いてそう言った。
 すぐに入り口に立つ男の姿に居住まいを正し、笠原限流なる人物に深く頭を下げた。

「はじめまして、那須ともえと申します!」
「お久しぶりです。日輪颯太です……今度の試合、オレ達が代表になったので挨拶に来ました」

 笠原限流は立派なひげを蓄えた厳つい顔の人物で、幸之助より小柄ながら威圧感は凄かった。挨拶をする二人にゆっくりと頷くと、

「良く来た。我が道場の代表を紹介しよう、こちらへ来なさい」

 そう言って道場へと消えて行った。
 二人の姿が見えなくなると、

「ぶはあっ!」

 颯太が大きく息を吐き出した。 

「大丈夫?」
「あー、こういう挨拶とかってマジで慣れねえ」
「でもかっこ良かったよ」
「うっせー、行くぞ?」

 笑うともえの頭を軽くコツンと拳で叩くと、颯太は少しリラックスした表情で草履を脱いだ。