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はなもあらしも ~颯太編~

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 * * *

 大きな演劇場で見る寄席は、田舎の神社で見た寄席とは比べ物にならない程面白かった。
 噺家の腕前もあるのだろうが、音楽などもあって華やかで、ずらりと並べてつり下げられた提灯が煌煌と灯り、美しくもあった。
 帰り道、ともえが夜空を見上げて先ほどの演目の話しに花を咲かせていると、颯太が急に真面目な口ぶりで話し始めた。

「なあ、ともえ」
「え? なあに?」

 先ほどからともえの足に合わせてゆっくり歩いていたのだが、それより格段に遅くなるとともえは颯太を見上げる。
 いつもとは違う颯太の真剣な眼差しを目の前で受け、ともえの鼓動は歩みとは正反対に速くなる。

「オレさ、正直今回の試合の代表にお前が選んでくれて良かったって思ってる」
「どうして?」

 素直な疑問をぶつける。

「弓道は好きだし、幸之助おじさんや真弓兄や道真や美弦も皆好きなんだ。だから、これからも皆と一緒にずっと弓道をやっていけたらいいなーって、だから、試合にもとにかく勝てばいいんだろって、そんくらいの気持ちしかなかった。でもさ、ただ好きで弓道がやりたいってだけじゃ駄目なんだって、やっと分かったっつーか……」

 そこまで言うと、颯太は完全に足を止めた。
 じっと見つめられ、ともえはどぎまぎする。

「ともえが家に来て、女の代表として選ばれてすげー頑張ってるのを見てきたし、今はこうやって足を怪我して練習出来ない事の不安とか不満とか、試合に間に合うのかって焦ってんのとか見てて、マジですげえなって感心したんだ」
「そんなこと……」
「いや、お前すげーよ。だって、出会ってまだそんなに時間も経ってないのに、お前は家の道場の事を真剣に考えてくれてさ、おまけに怪我までさせられてんのに諦めないなんて、どんだけ根性座ってんだって尊敬する」
「颯太だって一生懸命練習してるじゃない。私は、確かに日輪道場に来てからは日が浅いかもしれないけど、昔父上が一緒に修行をした大事な仲間だって、幸之助師範の話しはいつも聞いてたし、実際に日輪道場の人たちに会ってから皆個性的だったり優しかったり面白かったりして好きだもん……だから、力になれるならって思っただけでーーー」
「オレは?」
「え?」
「だから、その……日輪道場の人間の中で、す、好きだとか思ってくれてんのか?」

 困ったような、それでいて必死なような複雑な顔で尋ねる颯太に、ともえは驚いた。
 急激に熱くなる顔を慌てて地面へ向けると、小さく頷く。

「そ、颯太の事……好きだよっ。いつも元気だし、私の事も励ましてくれるしっ」

 精一杯伝えると、ほっとため息が漏れ聞こえた。

「そっか……へへっ。やっぱ嫌われるより好かれたほうが嬉しいもんな! よし! んじゃあ帰るかっ!」

 え? そういう問題なのっ!?

 必死の思いで気持ちを伝えたのに、案外軽く返されてともえは拍子抜けさせられてしまった。だが、すぐに繋がれたその手は優しくて、ともえは思わず笑ってしまう。
 ま、別にいいか。颯太の好きと私の好きが多少ずれてても、私は颯太が好きなんだもん。


 うん。 ―――颯太が好きだよ。