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はなもあらしも ~颯太編~

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「あーびっくりした。まさかあいつらにこんな所で会うなんてな!」

 橘も氷江もすっかり見えなくなり席に着くと、颯太はともえの腕を解放して大きく伸びをした。

「びっくりどころか、本当にあの人たち口が達者と言うか、厭味が強烈なのよっ。腹立たしいったらない!」

 ともえが握りこぶしを作って震わせていると、ふと颯太がその手を引いてともえの耳元に鼻をくっつけてきた。
 あまりに突然の事に、ともえは完全に硬直した。

 なっ、なっ、何ーーーーーーーーっっ!?

 一体何が起こっているのか、瞬きも忘れていると、耳に颯太の吐息が掛かって急にくすぐったくなる。

「ちょっと颯太っ。くすぐったいっ!」

 それだけ言うと、颯太は悪びれもせずに顔を離して笑った。

「全然いい匂いじゃん。心配すんな、ともえはいい匂いだ!」
「あのねえっ!」
「何だよ、顔真っ赤だぞ?」

 それが自分の所為だとは微塵も思っていな颯太は、緊張と驚きで顔を赤くしていたともえの頭をポンポン叩く。

「もうっ……」

 ふいっと颯太の手から逃れるように体をねじると、驚く程心臓が高鳴った。

 やだ、何?

 訳も無く……いや、颯太が近くに寄って来るだけでこんなにも胸が騒ぐ。
 この感情に名前をつけるとするならば、まさに恋―――ではなかろうか。

「あいつらは知らないみたいだったな……」

 ともえが自分の気持ちを改めて確認していると、颯太がぼそりと呟いた。ともえを襲ったのが笠原道場の人間だと目星をつけてはいるが、どうやら氷江も橘もあの様子では知らないようだ。これ以上追求のしようがなくなり、颯太は心持ち残念そうな顔をした。

「おっ、始まるみたいだ!」

 と、急にいつもの顔に戻るとともえに笑いかけて舞台を指差した。

「本当だ! 楽しみ!」

 颯太もともえも、それ以上考える事をやめた。今はせっかく寄席を楽しみに来たのだ。そちらに集中しなければもったいない。
 もう一度隣りに座る颯太を見る。
 一つ年下とはいえ、きりりとした顔立ちは男らしく、何とも頼りがいのある雰囲気をしているではないか。

 そっか、颯太って、結構男前だったんだ。

 音楽が奏でられる舞台へ視線を戻しながら、ともえは一人微笑んだ。