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はなもあらしも ~美弦編~

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第三話 試合に向けて


 笠原道場に出向いた翌日の早朝、ともえはまだほの暗い道場で一人矢を一心に放っていた。
 弦がこすれる音、矢が空気を裂きながら飛んで行く音、矢が的に的中する音。
 朝の澄んだ空気にそのどれもがよく反響し合い、ともえの心を震わせていた。
 田舎の道場ではそれなりに強かったともえだが、ここ日輪道場の面子の腕を見たともえは少し自信を消失しかけていた。誰もが自分より上手で、人を魅了する何かを持っている。
 少しでも追いつきたい、足を引っ張りたくはないと強く煩悶し、こうして朝から一人で矢を射続けているのだが――

 タンッ!

 みっしりと的が見えないくらい矢が刺さった所でともえは息を吐いた。

「はあ……」

 何度射ても分からない。自分には一体何が足りないのか。それとも気付いていないだけで、どこか悪い癖でもあるのだろうか?

「ともえ」

 突然声をかけられ、ともえは反射的に振り返った。

「あ、美弦。おはよう」

 振り向けばいつの間にか5歩ほど後ろに下がった所で、美弦がじっと控えていた。

「随分早いじゃないか」
「……負けたくないから」

 いたずらっぽく声をかけた美弦に、しかしともえは微笑み返す余裕すらない。すかさず的へと身を向ける。

「おい」
「なに」
「おい」
「なによ」

 そう言って振り向いた瞬間――

 パチッ

「いたっ!」

 美弦からデコピンされた事にともえが気付くのに、わずかばかりの間があった。