はなもあらしも ~美弦編~
第五話 美弦の気持ち
「おい、ともえ! 何やってんだよ」
ともえが暴漢に襲われてから三日が経過し迎えた早朝、美弦は道場へと向かっていた。
ともえがああなった以上、自分だけでも絶対に笠原に負けるわけにはいかないと思ったからだ。
そしてそこで目にした物は、まだ誰もいない道場で静かに弓を引くともえの姿だった。そして今、制止の言葉をかけた―――というわけだ。
「何って……特訓だけど?」
悪びれもせずにしれっとそう答えたともえに、美弦は心底腹が立った。
「やめろ。今すぐ」
「何言ってるの? 試合だって近いのに」
「やめろって言ってるんだ!」
叫ぶかのようにそう吐き捨てると、美弦はともえの手から無理やり弓を奪い取った。
「なにするのよ!」
「それはこっちのセリフだ! 足……まだ三日前やられたばっかなんだぞ!?」
「大丈夫よ。添え木して包帯でガチガチに巻いてあるんだし」
「……っ。頼むからやめてくれよ」
ともえは余裕たっぷりだったが、それに対し美弦の声には悲壮感が漂っていた。
「これ以上なんかあったらどうするんだよ。無理するなよ」
あまりに沈痛な表情でそう言うので、ともえも思わず押し黙ってしまった。
美弦は自分が何にそんなに怯えているのか、未だ判断出来てはいなかった。笠原との試合が流れれば日輪の名に傷が付き、それは敬愛する真弓を苦しめる事に繋がるから――最初はそうだと思った。
だから昨日からこんなにも苛立っているのだと思った。でも、早朝から弓を握るともえの姿を見た瞬間、それは違うと感じた。
作品名:はなもあらしも ~美弦編~ 作家名:有馬音文