はなもあらしも ~美弦編~
* * *
「わぁーおいしそう!」
「美琴は料理上手だからね」
「これ全部美琴ちゃんが作ったの!?」
「はい。お口合うかは分からないけど」
風呂敷から出てきたのは重箱で、中には色とりどりの総菜や何種ものおにぎり、食後の果物までが豊かにつまっていた。
「いただきまーす!」
ともえは元気に卵焼きを手に取ると、一気に口へと運びいれた。
「おいしい!」
「本当? 良かった」
「当たり前だろ、美味しいにきまってるじゃん」
そう言って誇らしげに美弦も料理を次々と口へと運んでいく。
美弦は美琴の作る御飯が大好きで、昔からよくこうして庭を眺めながら練習の合間に食事をとっているらしい。
日輪家の庭は多くの木々と花々が茂り、澄んだ池では鯉が泳いでいる。季節ごとに見せる表情が違うその庭は、見る者の気持ちを自然に綻ばせてくれる。
「ともえちゃん、元気そうで良かった」
ふいに美琴がそう呟いた。
「ん?」
「あ、なんか笠原道場の事とか、いろいろ気にしてるみたいだから心配だって、美弦が言ってたから」
「え?」
「美琴!」
顔を赤らめながら、美弦は急いで美琴をたしなめた。が――
ともえの耳に入ってしまった言葉を撤回する術はない。こんな風に見えても自分の事を気にかけてくれていた美弦に、ともえの心は小さく跳ねた。
「えっと……あちらの代表は氷江さんと橘さん?」
いそいそと話題を変えた美琴だったが、その口から零れた名にともえの眉は再びきりりと引き締まった。
「知ってるの?」
「ええ、お二人も幼い頃から笠原道場で稽古に励んでますもの」
「なーんか刺があるのよね。田舎者の私を馬鹿にしてるっていうか……」
「少し気がお強い方達ですから……でもあまり気にしない方がいいと思うわ。ともえちゃんはともえちゃんだもの」
「有難う」
美弦と美琴の心遣いに、ともえの心はふっと軽くなった。
思えば昨日笠原道場に行って以来、どこかずっと張りつめていた感がある。二人はそんなともえの心を感じとり、こういう場を設けてくれたのかもしれない――そう思うとともえは、感謝の気持ちでいっぱいになった。
作品名:はなもあらしも ~美弦編~ 作家名:有馬音文