天界での展開(2)
道々みち草
「明くる日に
思いの丈こそ
伝うべく
夜明けを待つ身に
夜の長さよ」
「一体、誰の歌ですか? 作者は、人間界で未だ生きているのですか? それとも・・」
「誰の歌でもない。こうしてあんたの後を歩いていると、ふと浮かんだ言葉だ。」
「な~んだ、そうですか・・、私はまた、人間界の誰かが・・と思って・・」
「そんなに素晴らしいかい?」
「いいえ、駄作です。」
「俺は、権蔵だ。太作じゃない。」
「・・ダサクと言ったのです。ダ・サ・ク、つまり、何処にでもあるありふれたものと比べても劣る、まるでお話に成らないという意味です。」
「そうかい? だけど、今のあんたの気持ちを正直に表していると思ったんだけどなぁ・・」
「それは・・・そうかも知れませんが、兎に角、駄作です。もっと格調高く歌って貰わねばなりません、私と清廉女史の件に関しては。」
「何を急に、はっきりと言い出すんだい。ちょいと前までは、あんたの気持ちさえはっきりと言えなかったくせに。まあ駄作でも、分り易くて良いだろ?」
「分り易いというか、そのものズバリで捻りがありません。歌というものは、そのものズバリではなくて、例えば、男を樹木に例えたり、女性を花の名で呼んだりですね・・」
「あんた、そんなに物事を曲げたり、行ったり来たりウロウロしていたんじゃ、目当ての者に逃げられてしまうぞ。好きなら面と向かって『好きだ』と言えば良いんだ。そして、断られたなら『あぁ、そうですか』と、その人の事などさっぱりと忘れて、次の好きになりそうな人を探す。その昔の話だが、人間界に豊臣秀吉とかいう人が居た。あんた、知ってるかい?」
「勿論です。その死人なら、今、天界で毘沙門天様の下で働いています。なかなか気の利く者らしく、毘沙門天様は、彼をその風貌から『サル』と呼んで可愛がっていらっしゃるそうですよ。」
「そうなのか?」
「はい。」
「それで?」
「はい? それで とは?」
「それで、どの様な働きぶりかと訊いているつもりだけど。」
「それ以上は、知りません。」
「いいや、あんたは、知っている。」
「知りません。」
「いいや、知っている。」
「知らないと言ったら、知らないのです。」
「強情だな~・・」
「強情でもどうでも、天界の様子をみだりに話す様な官吏は居ません。」
「という事は、あんたは、知らないのではなくて、知っているけど話せないというんだな。」
「まあ、そう解釈して頂いても結構です。」
「何が結構ですだ。あんたと俺の仲じゃないか。話せよ。聞かせてくれよ。」
「私は、しつこい人は嫌いです。」
「そうかい。じゃあ、あの姉ちゃんは、性格の辺りはサバサバとしているんだな?」
「そりゃそうです。というか、いきなり清廉女史に話しを振らないで下さい。纏まった話が出来ません。どうも一二三院四五六居士は、話に脈絡がなくて・・」
「良いじゃないか、どうせ毒にも薬にもならない世間話だ。姉ちゃんちに着くまでの、どうってことない話じゃないか。」
「私と清廉さんの事を、一般の世間話と同等に扱わないで下さい。」
「・・・・」
「私はですね、もう本当にあの女史を初めて見た時から、伴侶にするのはこの方しか考えられないと、ずっと思い続けて来たのですから。」
「・・・」
「・・ん? ・・・一二三院四五六居士、あなた、そんな処で一体何をしているのですか? あなたほどのおしゃべりが、何も言わないからと振り返って見れば、同じ処を行ったり来たり・・ 一体、どうしたのです?」
「うん・・ちょいと な・・ う~~ん、どうも妙な感じだ・・此処は、ちょいとだけ、二歩前に歩いた処よりも空気がひんやりとしている・・・気のせいか?・・もう一度試してみよう・・うん、やっぱり違う。」
「・・・」
「ちょいと訊くけどな、僅か1メートル程しか離れていないA地点とB地点で、気温の差が4度も違うことって天界では珍しくないのか? 池の水なら分かるけど、此処は一応天下の大道だ・・ しかも、B地点から1メートルのC地点に移動すると、C地点の気温は、A地点と同じになる。どうしてだい?」
「・・・」
「どうしてだ? 教えろよ。」
「・・・」
「あっ、その表情は、また何か隠してるな。さっきも言ったけど、あんたと俺の仲じゃないか、教えろよ。」
「・・・」
「そうか、俺が気安くタメ口で話すのが嫌なんだな。・・それでは、ひと時だけ口調を変えて、どうか、このバカに教えて頂けませんか。」
「都合の良い時だけバカにならないで下さい。」
「そんなにバカと利巧をコロコロ替えられるか。特に俺には無理だ。変えようにも利巧って部分の持ち合わせがちっとも無い。だが、あんたに出会ってからの短い経験から判断すると、俺にとって都合が良いって事は、あんた等天界からみれば、都合がよろしくない・・という事だな。益々知りたくなった。おい、教えろ。」
「・・」
「あくまで黙り通す気か・・、それなら、もう頼まない。好いさ、俺が一人で何故なのか調べるから。」
「も~いい加減に先へ進みませんか? 時間だけが、どんどん経ってしまうのですが・・」
「そりゃぁ、あんたは、あの姉ちゃんに一刻も早く会いたいだろうが、俺には俺の都合もある。すぐに終わるから待っててくれよ。」
「・・」
「・・こうして目を閉じて・・両の手をいっぱいに広げ、目の不自由な人が杖を持たず歩く様に、これから進もうとする前に何があるのかと、指先に気を集中して・・ゆるりゆるりと進む・・ん?・・何だ、これ?・・この微かに指先で感じる違和感は何だ・・?」
「・・っ!」
「あっ、この・・この・・俺が指差している此処の処にだな・・極精密に作られている・・何というか、人間界でいうところのファスナーが、何故か在る・・のかな?」
「・・」
「もっと集中・・するとだな・・やっぱりファスナーだ。・・まあ~~何と繊細な作業をしているものだなぁ~~、これは凄いぞ。何気なく歩いていると、向こうは透明で良く見えるし、ビニールやガラスなどに因って起こる屈折などもまったく無い。・・無いが、在るんだな、此処にある種の仕切り というか、出入り口というかが・・在るんだな・・ おい、このファスナーの向こうは、どうなってるんだい? 開けてみても良いかい?」
「・・」
「また黙りか・・黙るという事は、これは、天界のある種の仕組みのひとつ・・・だな? 黙っていないで教えろよ。あんた、まさか死にたてのホヤホヤのバカなどに開けられるものかと高をくくっているんだろうが、バカにはバカに備わった能力ってものがある。つまりだな、此処一番でただひとつの事に脇目も振らず集中出来るってことだ。・・あっ、ファスナーの開け口が分かったぞ!」
「ま、待て! そこを開けてはなりません!」
「どうしてだ? なぜだ? あんた、この向こうに美味しい饅頭でも隠しているのか?」
「も~~~・・、ガクッと膝が崩れそうなことを言わないで下さい・・ そんな処に、饅頭など隠す理由がないでしょう。」
「いいや、分らんぞ。あんたが、否定すればするほど怪しい。俺にもその饅頭を食わせろ!」
「ですから、饅頭ではないと言っているでしょう!」
「じゃあ何だ? ケーキか? はたまた、酒か?」
「明くる日に
思いの丈こそ
伝うべく
夜明けを待つ身に
夜の長さよ」
「一体、誰の歌ですか? 作者は、人間界で未だ生きているのですか? それとも・・」
「誰の歌でもない。こうしてあんたの後を歩いていると、ふと浮かんだ言葉だ。」
「な~んだ、そうですか・・、私はまた、人間界の誰かが・・と思って・・」
「そんなに素晴らしいかい?」
「いいえ、駄作です。」
「俺は、権蔵だ。太作じゃない。」
「・・ダサクと言ったのです。ダ・サ・ク、つまり、何処にでもあるありふれたものと比べても劣る、まるでお話に成らないという意味です。」
「そうかい? だけど、今のあんたの気持ちを正直に表していると思ったんだけどなぁ・・」
「それは・・・そうかも知れませんが、兎に角、駄作です。もっと格調高く歌って貰わねばなりません、私と清廉女史の件に関しては。」
「何を急に、はっきりと言い出すんだい。ちょいと前までは、あんたの気持ちさえはっきりと言えなかったくせに。まあ駄作でも、分り易くて良いだろ?」
「分り易いというか、そのものズバリで捻りがありません。歌というものは、そのものズバリではなくて、例えば、男を樹木に例えたり、女性を花の名で呼んだりですね・・」
「あんた、そんなに物事を曲げたり、行ったり来たりウロウロしていたんじゃ、目当ての者に逃げられてしまうぞ。好きなら面と向かって『好きだ』と言えば良いんだ。そして、断られたなら『あぁ、そうですか』と、その人の事などさっぱりと忘れて、次の好きになりそうな人を探す。その昔の話だが、人間界に豊臣秀吉とかいう人が居た。あんた、知ってるかい?」
「勿論です。その死人なら、今、天界で毘沙門天様の下で働いています。なかなか気の利く者らしく、毘沙門天様は、彼をその風貌から『サル』と呼んで可愛がっていらっしゃるそうですよ。」
「そうなのか?」
「はい。」
「それで?」
「はい? それで とは?」
「それで、どの様な働きぶりかと訊いているつもりだけど。」
「それ以上は、知りません。」
「いいや、あんたは、知っている。」
「知りません。」
「いいや、知っている。」
「知らないと言ったら、知らないのです。」
「強情だな~・・」
「強情でもどうでも、天界の様子をみだりに話す様な官吏は居ません。」
「という事は、あんたは、知らないのではなくて、知っているけど話せないというんだな。」
「まあ、そう解釈して頂いても結構です。」
「何が結構ですだ。あんたと俺の仲じゃないか。話せよ。聞かせてくれよ。」
「私は、しつこい人は嫌いです。」
「そうかい。じゃあ、あの姉ちゃんは、性格の辺りはサバサバとしているんだな?」
「そりゃそうです。というか、いきなり清廉女史に話しを振らないで下さい。纏まった話が出来ません。どうも一二三院四五六居士は、話に脈絡がなくて・・」
「良いじゃないか、どうせ毒にも薬にもならない世間話だ。姉ちゃんちに着くまでの、どうってことない話じゃないか。」
「私と清廉さんの事を、一般の世間話と同等に扱わないで下さい。」
「・・・・」
「私はですね、もう本当にあの女史を初めて見た時から、伴侶にするのはこの方しか考えられないと、ずっと思い続けて来たのですから。」
「・・・」
「・・ん? ・・・一二三院四五六居士、あなた、そんな処で一体何をしているのですか? あなたほどのおしゃべりが、何も言わないからと振り返って見れば、同じ処を行ったり来たり・・ 一体、どうしたのです?」
「うん・・ちょいと な・・ う~~ん、どうも妙な感じだ・・此処は、ちょいとだけ、二歩前に歩いた処よりも空気がひんやりとしている・・・気のせいか?・・もう一度試してみよう・・うん、やっぱり違う。」
「・・・」
「ちょいと訊くけどな、僅か1メートル程しか離れていないA地点とB地点で、気温の差が4度も違うことって天界では珍しくないのか? 池の水なら分かるけど、此処は一応天下の大道だ・・ しかも、B地点から1メートルのC地点に移動すると、C地点の気温は、A地点と同じになる。どうしてだい?」
「・・・」
「どうしてだ? 教えろよ。」
「・・・」
「あっ、その表情は、また何か隠してるな。さっきも言ったけど、あんたと俺の仲じゃないか、教えろよ。」
「・・・」
「そうか、俺が気安くタメ口で話すのが嫌なんだな。・・それでは、ひと時だけ口調を変えて、どうか、このバカに教えて頂けませんか。」
「都合の良い時だけバカにならないで下さい。」
「そんなにバカと利巧をコロコロ替えられるか。特に俺には無理だ。変えようにも利巧って部分の持ち合わせがちっとも無い。だが、あんたに出会ってからの短い経験から判断すると、俺にとって都合が良いって事は、あんた等天界からみれば、都合がよろしくない・・という事だな。益々知りたくなった。おい、教えろ。」
「・・」
「あくまで黙り通す気か・・、それなら、もう頼まない。好いさ、俺が一人で何故なのか調べるから。」
「も~いい加減に先へ進みませんか? 時間だけが、どんどん経ってしまうのですが・・」
「そりゃぁ、あんたは、あの姉ちゃんに一刻も早く会いたいだろうが、俺には俺の都合もある。すぐに終わるから待っててくれよ。」
「・・」
「・・こうして目を閉じて・・両の手をいっぱいに広げ、目の不自由な人が杖を持たず歩く様に、これから進もうとする前に何があるのかと、指先に気を集中して・・ゆるりゆるりと進む・・ん?・・何だ、これ?・・この微かに指先で感じる違和感は何だ・・?」
「・・っ!」
「あっ、この・・この・・俺が指差している此処の処にだな・・極精密に作られている・・何というか、人間界でいうところのファスナーが、何故か在る・・のかな?」
「・・」
「もっと集中・・するとだな・・やっぱりファスナーだ。・・まあ~~何と繊細な作業をしているものだなぁ~~、これは凄いぞ。何気なく歩いていると、向こうは透明で良く見えるし、ビニールやガラスなどに因って起こる屈折などもまったく無い。・・無いが、在るんだな、此処にある種の仕切り というか、出入り口というかが・・在るんだな・・ おい、このファスナーの向こうは、どうなってるんだい? 開けてみても良いかい?」
「・・」
「また黙りか・・黙るという事は、これは、天界のある種の仕組みのひとつ・・・だな? 黙っていないで教えろよ。あんた、まさか死にたてのホヤホヤのバカなどに開けられるものかと高をくくっているんだろうが、バカにはバカに備わった能力ってものがある。つまりだな、此処一番でただひとつの事に脇目も振らず集中出来るってことだ。・・あっ、ファスナーの開け口が分かったぞ!」
「ま、待て! そこを開けてはなりません!」
「どうしてだ? なぜだ? あんた、この向こうに美味しい饅頭でも隠しているのか?」
「も~~~・・、ガクッと膝が崩れそうなことを言わないで下さい・・ そんな処に、饅頭など隠す理由がないでしょう。」
「いいや、分らんぞ。あんたが、否定すればするほど怪しい。俺にもその饅頭を食わせろ!」
「ですから、饅頭ではないと言っているでしょう!」
「じゃあ何だ? ケーキか? はたまた、酒か?」