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「何あれ！？　さっきのあの氷江とか言う人と橘とか言う人！　それに道場の門下生も皆感じ悪い！！」

　笠原道場を出て、ピシャリとその門が閉ざされた瞬間、ともえはわざと大きな声でそう言って地面を蹴った。

「落ち着け」
「落ち着け？　無理！　だって私！　私……悔しいんだもん」

　急に語尾に覇気がなくなると、ともえはくたりと項垂れる。燃料が切れたのかと道真がともえを伺うと、涙を瞳にためて鋭い目つきで前を見据えた。

「見た目で判断するのはどうかと思うけど、それでもあの橘って人も氷江って人もすごく強いって分かった……それに比べて私は、彼女の言う通り田舎道場の人間だし、多分あの人達にはまだ敵わない。でも、相手が何も言えないくらいの雰囲気を持ってたら日輪道場の悪口なんて言わせなかったのにーーー」

　悔しいと、何度も何度も言うともえに、道真は一瞬胸がざわついた。ともえは自分が馬鹿にされた事よりも、日輪道場が馬鹿にされた事に腹を立てていたのだ。なんとも気概に富んだ少女だ。

「ま、いいんじゃねえの？」
「へ？」
「悔しいって思わない方がどうかしてるだろ。俺も昔からあいつらとは気が合わねえんだよ。何度殴ってやろうと思ったか」

　その言葉を聞いてともえが笑う。道真の表情が、今まで見た事の無い程子どもっぽかったのだ。

「ぷっ！　道真君も我慢してたんだ」
「うるさい。それより本気で修行するぞ。橘にあんな事言われたままでいいのか？」

　照れ隠しのように顔をしかめる道真に、ともえは笑顔を向ける。

「いいわけないでしょ！　絶対、絶対強くなってやるんだから！」

　そして拳を握りしめると、いつものように元気よく空にその拳を突き上げた。

「じゃあ取りあえず帰ったら筋力トレーニングからな」
「う……はあ〜い」