はなもあらしも 道真編
試合の運びは、近的と遠的両方を行ない、その的中数の多い方の勝ちという、しごく簡単なものだった。
まず、橘とともえが二人並んで近的に挑む。まだ霞の取れない中、ともえはしっかりと霞の向こうにある的を目に焼き付けた。
橘の第一射は見事的中。
「当然ですわ」
ともえの第一射。こちらも的中。
次に氷江と道真が近的に挑む。そしてどちらも的中。
「ふん。なかなかやるな、道真君」
「どうも」
ど真ん中に矢を的中させ、氷江が同じく真ん中に的中させた道真を見て偉そうに言う。
幼い頃のからの何やら因縁があるようだが、もちろんともえは知らない。二人の会話を見ていると、どうにも氷江が一方的に道真を敵視しているように伺えるが、どちらに尋ねても本当の所は分からないようなので黙って見守る。
互いに一歩も引かぬ接戦が続き、的中数も示し合わせたかのように同数となっていた。
本来団体戦は三人一組で行うのが通常だが、今回は笠原道場の決めた特別ルールが適用されている。このように同数で並んだ場合、次の遠的で決着をつけるようだ。
先ほどよりもさらに遠くなった的をしっかりと見定め、ともは弓を構えて息を吸い込んだ。
矢をつがえ、弦を耳の後ろまでしっかりと引く。
そして的と風を読み、一気に矢を放った。
タンッ!
「的中!」
最初の一矢が見事的中し、思わず後ろの道真を振り返る。ほんの少しだけ、道真が「良くやった」と言ってくれたような気がした。
続く橘も当然のごとく的中させ、氷江と道真も同じように的中させた。
このままでは決着がつきそうにもない。
そう思っていると、一時休憩の運びとなった。
作品名:はなもあらしも 道真編 作家名:有馬音文