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はなもあらしも 道真編

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「まさか橘さんと氷江君に会うなんて、びっくりしたね! しかも何よっ! 人の事肥だめとか馬小屋だとか言って!」

 橘も氷江もすっかり見えなくなり席に着くと、ともえが肩の力を抜いて口を尖らせる。

「あれ?」

 あまりにも突然の事に、ともえは指一本動かせないようになった。
 なんと、道真がともえの髪に鼻を寄せてきたのだ。

「なっ! 何やってるのっ!?」

 漸くそれだけ叫ぶと、道真はハッとしたようにともえから離れた。

「わ、悪い……いや、変な臭いなんてしないから、気にするな……どっちかって言ったら、いい、匂いだ―――」
「っ……」

 ともえの心は衝撃を受けた。
 あの道真が、ほんの少し顔を赤く染め、ともえの事を褒めたのだ。いや、褒めたかどうか分からないが、橘達に言われた事で傷ついたともえを慰めてくれたのだ。

「ありがとう……」

 少しずつ早くなる鼓動に、ともえは道真から視線を外して舞台を見た。
 こうして男の子と一緒にいる事がなかった訳ではない。安芸の道場では男だらけだし、子どもの頃から遊び相手は男の子ばかりだった。
 でも、道真は遊び相手だった男の子達とはまるで違う。
 何と言うか、側にいると少し緊張して、話しをすると心がざわつく。

 もしかして、これが恋……なのかな―――

「やっぱりあいつらは知らなかったか……」

 ぼそりと呟いた道真は、先ほどの橘と氷江がともえの怪我について知らなかった事を思い返しているようだった。

「あ、始まるみたいだよ!」
「ああ」

 賑やかになった舞台の上と、隣りに座る道真の存在にともえはときめいた。
 こうした時間を持てた事。道真が何故寄せに連れてきてくれたのか分からなかったが、それでも嬉しいと思った。