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原点

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一日目



-序章-
 北海道富良野。そこには広大な大地と満点の星空が広がっていた…。


-東京・新千歳空港-
 さかのぼること約二十四時間。僕ら五人は少々浮かれていた。
 二〇一四年八月三十日午後十時、七日間に亘る僕らの旅はお台場にある東京大江戸温泉から始まった。
 首尾よく就職活動を終え、概ね単位も取り終えた僕らは卒業旅行を計画した。その卒業旅行の目的地として北海道が選ばれたのだった。
 次の日は早朝フライトである。
 東京大江戸温泉から成田空港への午前四時発のシャトルバスに乗るため、前日の午後十時に東京テレポート駅に集合し東京大江戸温泉へと向かった。東京大江戸温泉は二十四時間営業しており、仮眠を取ることができる。
 巨大なタンクローリーで運ばれてきたという温泉でこれからの前途多難な旅で酷使する身体を癒し、江戸を扮したテーマパークでひとしきり騒いだのち、いびき音とオヤジ臭で満ちた仮眠室で床に就いた。
 早朝起床という苦行に耐性のない僕らは午前三時半に携帯アラームで叩き起こされ、眠気で攪拌された脳を徐々に起動させながら成田空港に向かうシャトルバスへ乗り込む。
 僕らを乗せたバスは午前五時四十分に成田空港に到着し、午前七時発のフライトは午前九時に新千歳空港に到着した。
 空港は旅行客で溢れ返り、熱気に満ちていた。空は快晴で、これから始まる良き旅の兆しに、皆もまた胸に熱を覚えているようだった。

-支笏湖-
 空港近くで予約したレンタカーに身体をねじ込み、まずは屈指の透明度を誇る湖、支笏湖へと向かった。
 支笏湖は、千歳市にある淡水湖で支笏洞爺国立公園に属し、日本最北の不凍湖である。北海道南西部に位置し、湖の周囲は約四十キロメートル、最大水深は三百六十メートルにもなる。
 ナビで目的地を支笏湖にセットし、北海道の広い車道をひたすら走り抜ける。
 支笏湖が近づいてくると、道路の脇にはモスグリーンの針葉樹の連なりが濃くなってきた。
 東京ではあまり見ない針葉樹だなと思ったが、その何とも凛とした出で立ちが、まだ続く夏の暑さを少しだけ涼しくする。
 しばらく車を走らせると、最初の目的地、支笏湖に到着した。朝早めの時間だからだろうか、観光客は少ない。
 支笏湖へとつながる道の両脇には軽食やお土産を売るお店が立ち並んでいる。
 湖に近づいてみると湖はコバルトブルーに近い青色で、まだ登り切らない太陽の光をキラキラと水面に反射させていた。
 支笏湖では遊覧船に乗ることができ、船の地下はガラス張りになっているため湖の中に潜ったような感覚を味わえる。
 僕らはチケットを購入し、遊覧船に乗り込んだ。
 乗り込んで間も無く、出発する旨のアナウンスが流れ、徐々に駆動していくエンジンが船体を揺らす。
 船は動き出すと直ぐに加速度を上げて光を反射する水面と爽やかな朝の空気を切って進んだ。
 しばらく進むと水深が深くなってきたとのアナウンスがあり、地下に降りてみる。
 船の地下では少し緑がかった青色の世界が広がっていて、ガラスの向こうでは様々な魚たちがすいすいと泳いでいた。
 地下に設置された横に連なった簡易椅子に僕らは腰掛けた。椅子は徐々に他の観光客で埋まっていく。
 上からではわからなかったが、水はやはり透明度が高く、しっかりと湖の底まで確認することができる。僕らは必死にカメラのシャッターを切ったり、冗談を言い合ったりと、まるで高校生に戻ったようである。
 しばらく水中気分を味わった僕らは船上へと出た。地下の明るさに慣れてしまった目にはまぶしすぎる太陽が燦々と降り注ぎ、スピードを上げた遊覧船は涼しい風を送ってくれる。
 後方を見るとさっきまでいた船着場は小さくなっていて、かなりの距離を進んできたことが分かった。
 三十分程で遊覧は終了し、船を降りた僕らは早々に支笏湖を後にした。綿密に組まれた旅をこなす為、僕らの旅は常に時間が無く押しているのだ。

-札幌・富良野-
 正午、北海道の中枢、札幌に到着。
 空っぽになりかけた僕らの腹を、札幌自慢のラーメンで満たす。味噌風味の香ばしいスープが絡んだもちもちの麺が腹に落ちていく。僕らもラーメンの深みに落ちていく…。
 空腹を満たしたのち、ペンギンのマスコットキャラクターを掲げる巨大ディスカウントストアで、水着を購入した。なぜ水着か…。これが後々活きてくる。
 そして早々に札幌を後にした僕らは、今日の最終目的地の富良野へ出発した。何度も言うが僕らの旅は常に押しているのだ。
 約二時間をかけて本日の寝床、星に手のとどく丘キャンプ場へと向かった。北海道の旅において、約半分を占めるのが「移動」である。北海道を周遊する際はこの点を心得ておくとよい。
 星に手のとどく丘キャンプ場では、広大な大地の中でBBQを楽しめる。バンガローも比較的にきれいでありベットも完備されているため、女性にも使いやすいだろう。
 約二時間、僕らの相棒を走らせ、途中にある地元のスーパーでBBQ用の食材を購入した。
 スーパーだからと言って侮ってはならない。地元で育った健康な牛肉や豚肉、野菜などが新鮮にかつ安く手に入る。
 気の大きくなった僕らは、大量の肉や野菜の食材、飲み物を購入する。
 スーパーを出る頃にはすでに太陽は沈みかけていて、抽象的オブジェの様な雲が橙色に染まって浮かんでいた。
 食材購入に時間をかけ過ぎた僕らがキャンプ場に到着した時、時計は午後七時を指していた。余談だが、キャンプ場の管理人さんに遅すぎると軽い叱責をくらった。
 バツの悪い僕らはそそくさと管理人室を後にして、バンガローへ向かう。キャンプ場には緩やかな斜面の丘が広がっており、バンガローが点々としている。僕らが泊まるバンガローは丘のほぼ一番上に位置してた。
 車をバンガローの横に付け、荷物をバンガローに搬入する。スーパーで購入してきた食材を卓に並べ、お待ちかねのBBQである。
 炭に火をつけ、火が勢いを増したところで、金網に食材を乗せ豪快に熱を通していく。溢れである肉汁と上質な油で舌が溶けていく。これが本当に美味い。
 お腹を空かせていたのに加えて余程美味しかったのだろう、スーパーで大量に買い込んだ食材は完食された。
 BBQを終えた僕らは、セットを片付けてバンガローに戻った。バンガローは二階建てになっていて、それぞれの階にベッドが二つ並んでいる。
 夏でも夜になると冷える富良野の夜を、完備された暖房で暖め、間接照明でぼんやりと明るくなった部屋で翌日の作戦を練った。
 計画された旅は「旅」ではなく「ただの旅行」だとどこぞの誰かが言っていたが、スケジュールの計画と管理も旅における重要なファクターである。
 作戦会議を終えた僕らは、少し離れたところにあるトイレに用を足しに出かけた。夏とは言え外はやはりひんやりと冷えており、思わずパーカーを羽織って身体をさすった。
 その時誰かが「あっ」と上を見上げて声を上げた。
 その見上げた光景に僕らは息をのんだ。
 そこにはプラネタリウムさながらの満天の星空が広がっていたのである。BBQの時は、火や管理人棟の明かりで星には気が付かなったのだ。
作品名:原点 作家名:きよてる